自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ラ・ヨローナ~泣く女~

『ラ・ヨローナ~泣く女~』

  (原題:The Curse of La Llorona)

2019年 93分 アメリ

評価 6点/10点満点中

 

ワイルド・スピード SKY MISSION』や『アクアマン』で好成績を叩きだし、ホラー以外のジャンルでも大活躍中の監督ジェームズ・ワン。彼が製作として携わる「死霊館シリーズ」に連なる本作。もちろん、ワンも製作として参加している。

「ラ・ヨローナ」は、ラテンアメリカの伝説に登場する幽霊で、概要は作中で語られたものとだいたい同じ。「泣く女」というモチーフはケルト文化の妖精「バンシー」に近いが、やっていることはギリシア神話の「ラミア」に似ている。歴史や文化を感じるホラーである。

ホラー映画としては古典的ともいえるほどオーソドックスな作り。ジャンプスケア、いわゆるビックリ演出が多いのが特徴で、それを嫌う人には辛い映画だと思う。ストーリーは可もなく不可もなくといった感じで、良くも悪くも凡作な出来。わーきゃー騒いで見る分には良い作品だろう。

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

1973年、ロサンゼルスに住むアンナは、警察官である夫を亡くしてからも、息子のクリスと娘のサムとともに平和な生活を送っている。

児童相談所で働くアンナは、自身が担当しているアルバレズ家の子どもたちが学校を無断欠席していることを知ると、警察官とともにアルバレズ家のアパートを訪れる。アンナたちを出迎えたアルバレズ家の母親パトリシアは、顔色が悪く憔悴しきっており、アンナたちが家に入るのを拒絶する。異常を感じたアンナは、自分ひとりが入ることを条件にパトリシアを納得させ、アパートの部屋に入る。部屋には大量のロウソクが焚かれており、部屋中に護符やお守りが置かれている。無数の目が描かれて施錠されたクローゼットの扉を見つけたアンナがそれに触れると、パトリシアが凄まじい形相で彼女に襲い掛かる。中に入ってきた警察官によって取り押さえられたパトリシアは、「ドアを開けないで。もう一晩だけ待って」と絶叫する。連れ出されるパトリシアを見ながら、取っ組み合いのときに奪っていた鍵で、アンナはクローゼットを開ける。中には、パトリシアふたりの息子、カルロスとトマスが入っていた。

ふたりは福祉施設で保護される。アンナは彼らの手首に傷をみとめ、誰がやったのかを訪ねると、ふたりは「彼女がやった」と答える。

その夜、カルロスは目を覚ますと、トマスがふらふらと部屋の外に出ていくのを見て、あとを追いかける。廊下で立ち止ったトマスは、カルロスの背後を指さす。角の鏡に白いドレスの女が映っていて、カルロスは後ずさる。頭の上から水が落ちてきて、カルロスは足元に水たまりがあるのに気が付く。彼が顔をあげると、女の絶叫した顔が目に飛び込んでくる。

夜中、アンナは夫の同僚であったクープから電話を受け、カルロスたちが川で溺死したことを知る。子どもたちをともなって現場に向かった彼女は、子どもたちを車に残してふたりの死体を確認する。カルロスたちの死を悔やむ彼女のもとにパトリシアが現れ、息子たちの死はアンナのせいだと責める。警察官に連行されるパトリシアは、「ラ・ヨローナ」という言葉を口にする。パトカーに乗せられたパトリシアは、車に乗ったクリスを凝視して去る。

警察官だった父に憧れるクリスは、現場を見ようと、寝ているサムを残してこっそり車を出る。現場の近くに来たクリスは、女の泣く声を聞く。クリスは振り向くと、フェンスの向こう側に膝をついて泣く女を見つける。女はクリスに気づくと、立ち上がりゆっくり彼に近づく。逃げようとしたクリスの目の前に女が現れ、彼の手首を掴む。クリスの手首は焼けたようにくすぶる。女を振り払って車に戻るクリスだが、女は窓を開けて侵入を試みる。クリスがなんとか侵入を阻止すると、アンナが戻ってきて、三人は家に帰る。ベッドに入ったクリスは、自分の手に手形の傷ができていることに気づく。

この日を境に異常な現象に襲われるアンナと子どもたち。彼女たちは、悲しき「ラ・ヨローナ」の伝説を知ることになり、泣く女と戦う手段を探す。

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

ホラー映画の主人公、三割くらいシングルマザー説

前置きでも書いた通り、本作はホラー映画としては教科書のお手本のような出来をしている。シングルマザーの主人公、霊によりつけられた傷、助けにならない神父等々。ただ、習字のお手本に芸術性を感じないように、教科書通りに作ったからと言って面白い作品になるとは限らない。見終わっても物足りなさを感じるし、尖ったところがないので印象にも残らない。ある意味で最も損する位置にある映画かもしれない。

ホラー演出としてはジャンプスケアを多用している。唐突に幽霊が目の前に現れ、それに合わせて音が鳴るというやつだ。これに関しては賛否がわかれるところではある。恐怖というより驚きという点で気に入らいない人もいるだろうし、演出のひとつとして楽しめる人もいるだろう。個人的には別に嫌いではないのだが、本作ではくどいくらい多用されていたので、少々うんざりしてしまった。また、多用されると、どのタイミングでくるかが読めてしまうので、驚きも薄れていってしまう。ほどほどが肝要ということである。

良かった演出といえば、ビニール傘でラ・ヨローナが見えたり見えなかったりするやつだろうか。ビニール傘を通してみれば姿が見えて、傘を上げれば消える。ベールを通して見る風景は、現実から少しずれた感じがする。眼鏡とかでも応用できそうである。

物語の盛り上がりとして仕方のないことではあるが、終盤ではラ・ヨローナが出ずっぱりになり、彼女の存在の恐怖感がずいぶん小さくなってしまった。見えるか見えないかの瀬戸際。幽霊の恐怖が一番活かされるのはそこだろう。あまりに姿を現したままでいると、もはや殺人鬼スラッシャーと変わらず、幽霊のよさが死んでしまう。幽霊なのに死んでしまう。ごめんなさい。

 

十字架(物理)

ストーリーや設定に着目しても、やっぱり印象に残るところはほとんどない。全体の流れは、ホラー映画好きなら百回は見たような流れだ。それでもいくつかは、面白い展開や場面を挙げることはできる。

ホラー映画では『エクソシスト』以外神父や牧師は役に立たないので、本作でも元神父の呪術師であるラファエルが、聖職者に代わって幽霊に立ち向かう。彼は教会と確執があるようだが、どのようなものかは作中では明かされない。本作をフランチャイズ化したときようにとっているのだろう。

お堅い人物が多い役回りで、ラファエルは皮肉屋で策士という変わったキャラクターをしている。助けを求めにきたアンナたちを追い返そうとしたり、ラ・ヨローナに一撃浴びせるためにアンナたちを囮にしたりと、同じ「死霊館シリーズ」のウォーレン夫妻とは真逆ともいえる。しかしながら、子どもの助けには弱かったり、命を懸けて戦ったりと、性根は優しい。キャラとしては良くいるタイプかもしれないが、本作のようなホラーにこのタイプがいることは珍しく、他の作品でも見てみたいとすら思えた。

パトリシアの使い方もうまかった。悲劇に遭い、主人公を逆恨みして呪いをかけてくるキャラ。だいたいこういう奴は中盤であっさり死ぬのだが、パトリシアは終盤に登場して、見事なミスリードを生んだ。越えられないはずの種の線を越える足を見て、視聴者はハテなと思い、パトリシアを見て納得する。そのあとの行動の変化はやや性急なところもあるが、彼女も我が子を一心に思う母親なのだと思えばそれほど不自然でもない。

やっぱり本作で一番インパクトがあるのは、ラストのラスト、アンナがラ・ヨローナを炎の木の十字架でぶっ刺すシーンだろう。追いつめられたアンナたち、目の前に迫るラ・ヨローナ。倒れたラファエルは十字架を蹴りアンナに渡す。アンナは十字架を握りしめてラ・ヨローナに刺す。十字架の聖なる力と、炎の木というラ・ヨローナキラーのアビリティ、なにより刺さったら痛そうな形状の力により、ラ・ヨローナは消滅する。神を信じてるくせに十字架を蹴飛ばすラファエルにもツッコミたいのだが、意図を一瞬で察して十字架を突き刺したアンナも大概である。十字架が刺突武器ではありません。思えば、ラ・ヨローナは壁などを透過するシーンはなかった。彼女は移動するときには必ず扉を開いていた。ラ・ヨローナは物理的に触れられる。だから十字架も刺すことができた。実はゴーストタイプではななかったのだ。初めから刺せばよかったというのは言わないお約束だ。

アメリカではラテン系の移民が影響力を拡大しており、ハリウッド映画でも少し前まで見られなかったヒスパニック系のキャラクターが良く出てくるようになった。この移民が問題となり、あのトランプ大統領の誕生の一因ともなったのだが、そもそもアメリカは移民の国なので、やがてラテン系もアメリカという大国を彩る色となるだろう。

ラテンアメリカと言えば陽気なイメージがあるが、高い犯罪率やマフィアなども有名である。先住民の文明には人身御供の儀式があったり、やってきたヨーロッパ人は征服者として残虐の限りを尽くした。暗い伝説や民話がたくさんあっても当然なのである。文学でもルイス=ボルヘスガルシア・マルケスのように、幻想的で悲哀を感じるマジックリアリズムが有名だ。ホラー映画の題材はたくさん転がっているかもしれない。

 

 

まとめ

教科書的作品で、人と見るならそれなりに楽しめるが、ひとりで見ているとどうしてもだれてきてしまう。ジャンプスケアの多用も人を選ぶだろう。ただ、普段触れる機会の少ないラテンアメリカをテーマにした作品で、ラテンアメリカの持つ可能性を感じられる。コンキスタドールが求めたエル・ドラドはなかったが、ホラー設定のエル・ドラドはあるかもしれない。ただし『テリファイド』、てめーはダメだ。