自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ゴースト・シップ

『ゴースト・シップ』

  (原題:Ghost Ship)

2002年 91分 アメリカ/オーストラリア

評価 7.5点/10点

 

 

「幽霊船」と聞くだけで、わくわくする人もいるのではないだろうか?

それは恐怖が支配する海の密室であり、囚われた人の魂は積み荷となり、永遠に海をさまようことになる。

大航海時代の帆船から、近代の蒸気船、そして内燃機関と動力が変わろうとも、海が危険であることは変わらず、目的地にたどり着けず海を漂う運命になった船は多い。動かす人がいなくなっても船は海をめぐり続け、他の船の水夫たちは海で見つけたそれらを「幽霊船」と呼び恐れた。

古くは「さまよえるオランダ人」の伝説から、都市伝説となっている「メアリー・セレスト号」の怪異、デマによって共食いの恐怖譚とされてしまった「良栄丸遭難事故」など、「幽霊船」というモチーフは海から離れて暮らしている人々をも惹きつける。

本作もタイトル通り「幽霊船」を舞台としたホラーだ。一攫千金を夢見て幽霊船に乗り込んだ人々を、恐ろしい現象が襲う。演出が光る見事な作品なので、ぜひおすすめしたい。

 

 

 

 

 

あらすじ(序盤のネタバレあり)

1962年、豪華客船の「アントニア・グラーザ号」はニューヨークを目指して大西洋を航海していた。歌とバンドの演奏で盛り上がる甲板で、船員や乗客たちはダンスに興じていた。ニューヨークにいる両親のもとへ向かうため、一人で船に乗っていた少女は退屈でパズルを弄っていたが、優しい船員に誘われてダンスを踊っていた。笑いが満ちる船内だが、何者かがワイヤー装置を操作、仕掛けられていたトラップにより、甲板にいた人々は背の低い少女を除き、体が真っ二つになる。惨劇を目にした少女の悲鳴がこだまし、それ以来「アントニア・グラーザ号」は消息を絶つ。

 

それから四十年後の2002年、「北極の戦士号」で沈没船の回収事業を生業としているマーフィーたちは、バーで仕事の成功を祝う。上機嫌にジョークを言い合う彼らに一人の男が近づく。男はフェリマンと名乗り、飛行機を用いた天候調査員をしていると言う。彼はベーリング海峡を飛んでいるとき、巨大な船が漂流しているのを見つけ、それの回収をマーフィーたちに依頼する。急な依頼に戸惑う一同だが、マーフィーの一声で依頼を承諾、フェリマンも彼らとともに行くことを条件に不利な報酬条件をのむ。

荒れるベーリング海を進む「北極の戦士号」。操舵手のサントスはレーダーに現れては消える船影をマーフィーに報告する。船影に戸惑う一同の前に突如巨大な船が出現し、「北極の戦士号」は衝突してしまうがなんとか大事は回避する。

現れた船が四十年前に消えた「アントニア・グラーザ号」だと気が付き、驚きを隠せないマーフィー。マーフィーに唯一の女性メンバーのエップス、若いドッジとマンダ―の四人で船に乗り込む。

四十年間風雨に晒された船内を探索中、マンダ―の足元の床が抜け、エップスが彼を掴んで全員で引き上げる。そのときエップスは、階下に少女がいるのを目撃する。さらに船の探索を続けると、四十年前には存在しないはずのデジタル時計が操舵室で見つかる。奇妙に思いながらも「北極の戦士号」に戻る一同。翌朝に船の状態を確かめてから、「アントニア・グラーザ号」をどうするかを話し合うことにする。その夜、エップスは少女を船内で見たことをフェリマンに話すが、彼は幻覚を見たんだろうと言う。

翌朝、海に潜って船の様子を確かめた結果、船体に穴が開いていて船は沈み続けていることを突き止める。議論の末、船の穴を修復し機関部を直すことで、近くの港まで曳航することを決める。

それぞれの役目を決めて船に乗り込む一同に奇妙な出来事が起こる。マーフィーは船長室で覗いた鏡に映った自分が、白髪の男になっているのを見る。航海士のグリーアは口紅の跡が残る火の点いたタバコを見つける。エップスはプールで少女を目撃し驚きで転倒。気を失った彼女が起きたときには少女の姿はなく、フェリマンが心配そうに彼女を見ていた。二人はプールに無数の銃痕があることを発見する。二人が去ったあと、銃痕から流れ出した血がプールを満たし、血の海の中には無数の死体が浮く。

洗濯室でいくつもの新しい死体を発見したエップスとフェリマンは、この船になにか危険があることを察して、他のメンバーに知らせようと船をめぐっている最中に、大量の金塊を見つける。数億ドルにもなる金塊を見つけたことで、一同は船のことは放って金塊だけを持ち帰ることにする。そして金塊を運び、いざ「北極の戦士号」に積み込もうとしたとき、少女が現れた「やめて!」と叫ぶ。「北極の戦士号」の機関室ではサクソンが衝突のさいに不調になったエンジンを直し終え、グリーアにエンジンを点けることを支持する。その直後に、サクソンはプロパンガスが漏れていることに気が付き、「北極の戦士号」は爆発。グリーアは救出されるが、サクソンは船とともに沈む。

「アントニア・グラーザ号」に取り残され途方に暮れる一同。彼らにさらなる恐怖が襲いかかる。

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

オーバールック・ホテル・オン・ザ・シー

キューブリックの『シャイニング』は映画としては好きだが、ホラー映画としてはそれほど面白くないと思っている。だが、ホラー映画を多くみていると、この作品がこのジャンルに大きな影響を与えたことがわかる。

『ゴースト・シップ』においても、直接的なものではないが、その影響を見ることができる。少女ケイティーの幽霊は、『シャイニング』の双子の幽霊を思い起こさせるし、プールが血で満ちるシーンや、洗濯室で血と死体が流れるシーンも、エレベーターからあふれ出る血の洪水を想起させる。

個人的には、演出の面においては『シャイニング』よりも好きだ。とくに銃痕から血が流れるシーンはシュルレアリスティックな不気味さがあるし、食べていた食料が実は蛆虫だったシーンも、生理的な嫌悪を超えた恐怖がある。かつて船で起こった凶事を匂わせながら登場人物たちを襲う怪奇現象を通して、視聴者は「アントニア・グラーザ号」の謎にはまっていく。

演出は出だしから見事だ。冒頭の事件は1962年の出来事ということもあって、映像の質感、文字のフォントや配置がわざと古臭い感じに作られている。孤独な少女に船員たちが手を差し伸べて、ともにダンスを踊る。心温まるシーンは、ワイヤートラップによって人々の体が切断されるという恐ろしいシーンへと急降下する。上半身と下半身がわかれた人々が崩れ落ちるという演出は、ともすれば滑稽に映るかもしれない。だが、一人取り残された少女のこれから、ワイヤー装置を操作した人物の謎、なによりもシーンのインパクトは、視聴者をこの映画に引きずりこむだろう。

 

今日からお前は回収屋だ!

冒頭のシーンを見て、多くの人が思うのは、人々を殺した人物の正体だろう。舞台が四十年後になり、主要人物たちを怪奇現象を襲うわけだが、見ている人々は誰が黒幕なのかを推理するだろう。ケイティーはわりと序盤から黒幕から外れる。そうなると、まあ怪しいのは一人だけになるのだが、こいつの正体がわからない。なにせ四十年前に惨劇を起こしたには若すぎる。幽霊というには物理的な接触ができる(幽霊のケイティーは物に触れない)。じゃあ、こいつはいったい何なんだ?

サタンの部下でした。

ということで、フェリマンは天候観測員などではなく、船に魂を縛り付けて、それを地獄のサタンのもとへ運ぶ役目の回収屋だったわけだ。悪魔かと思ったが、人生で犯した罪の罰、とフェリマンが語っていたので、彼は一応元人間のようだ。どうやら生きているときにやらかしすぎて地獄に堕ち、サタンにこき使われているらしい。(日本語字幕では「サタン」となっているが、英語では「management」という単語を使っている。これは地獄にいる悪魔たちということだろうか。サタンと訳したのはわかりやすくてよいと思う)

フェリマンは金塊で人々を誘惑し、船の中で人々を殺し魂を得る。そのうえ罪人の魂はフェリマンによって掌に印をつけられ、彼に使役される。「アントニア・グラーザ号」を襲った惨劇も、彼の金塊を求めて、船員に化けた強盗団が乗員乗客を惨殺、さらには自らの取り分を増やすために仲間内で殺し合った結果だった。ケイティーは幼く罪のない魂だったので、フェリマンによって船に縛られてはいたものの、彼に支配はされていなかった。

金塊を見つけたときにフェリマンが見せた笑みは、久方ぶりの獲物を見つけた笑みだった。そもそも金塊を見つけたのも、彼が古いフォードを見て興奮したふりをして寄り道した結果だった。

ここまで書いたことだけを見れば、かなり恐ろしい存在であるフェリマンだが、冷静に見るとドジな面や脆い面も存在する。まず、彼は船の中で怪奇現象を起こせるが、船自体は普通のものだということ。当然、故障はするし経年劣化もする。マーフィーたちを船に呼んだのは、船を修理させるためだったのだが、それなら金塊を見つけさせるのをもう少し遅らせたらよかったんじゃないだろうか。人の魂が欲しいのはわかるが、結果として船を修理する前に欠員が生まれてしまった。

フェリマン自身は船を直せない。「アントニア・グラーザ号」の前には「ローレライ号」という船にいたらしいが、その船も沈没しかけたところを「アントニア・グラーザ号」に発見されたからよかったが、完全に沈んでいたらどうしたんだろう。まあ、エンディングを見るに最初からやり直しというだけで、新しい船を探すのだろう。

そもそも「アントニア・グラーザ号」で虐殺を起こしたときに、先のことを考えなかったのだろうか。皆殺しにするから船を操る人も直す人もいなくなり、四十年もの長きにわたり、海を放浪するはめになるのだ。

他にもフェリマンは物理攻撃が通じる。殺すことはできないが、銛を足に刺されて苦痛で叫び、隙を見せるくらいには物理が通る。頑張れば一般人でも勝てそうである。

 

褒めてばかりいたが、この作品のマイナス点もあげようと思う。テンポもよく後半まではほとんど不満はなかった。しかし、すべての真実が明らかになる、エップスが「アントニア・グラーザ号」の過去を幻視するシーンだが、乗員乗客が次々と殺される恐ろしい虐殺シーンのBGMがダンスミュージック調で、『キングスマン』の戦闘シーンを見ているようだった。それまでのおどろおどろしい雰囲気が損なわれてしまう。ここは冒頭と同じような演出でよかったんじゃないだろうか。

またマンダ―とドッジは在庫処分といった感じで死んでしまう。ドッジにいたっては死亡シーンすら存在しない。そこはもう少し丁寧にお願いしたかった。

設定を細かく気にする人なら、フェリマンの行動が非合理なことや設定の粗も目に付くだろう。話を作るためには仕方がないのだろうが。

 

まとめ

本作は「幽霊船」という舞台を上手く生かしたホラーだった。なによりも演出による不気味さや過去の惨劇の謎など、視聴者を引き込む工夫もあり、退屈しないで見られる映画だろう。「幽霊船」モチーフのホラーでは、お手本になる作品だ。