自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 クローズド・バル

『クローズド・バル』(原題:El Bar)

2017年 102分 スペイン

評価 5点/10点満点中

 

 

近年、バルという形態の店が流行を見せている。スペイン語のバルは英語のバー(Bar)から来ているのだが、バーとは異なり喫茶店や食堂というほうが近い。日本ではお酒と料理が楽しめる洋風居酒屋といった感じか。お洒落な響きのバルだが、スペインでは庶民的なありふれた店らしい。

本作は、そんなバルから「出られなくなってしまった」人々を描いた作品。以前紹介した『ディヴァイド』と似た密室心理サスペンスだが、こちらはコメディ要素が強い。わかりやすい個性を持つキャラたちにコメディらしい笑いどころもあるが、全体としては既視感の強い作品で、オチに関しても逃げの感じが強い。コメディとはいえゲラゲラ笑えるわけでもない。ただ、キャラ造形は細かいところがあるのは評価点か。スペイン映画に興味があるという人はどうぞ。あまりスペインらしい映画でもないが。

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

ウェブで知り合った男と落ち合うためにホテルを探しているエレナ。しかし、友人との電話中にスマホの充電が切れたために、近くにあったバルに充電器を借りるために入る。バルで注文をしたあと、充電器がないかと尋ねると、店員のサトゥルが客の忘れものだと言う大量の充電器の束を出す。バルには食事を取りに来たサラリーマン、置いてあるスロットマシーンを撃ちに来る中年女、常連の男、トイレを借りに来た男などがおり、さらにはバルの女主人の顔なじみであるホームレスまでがはいってくる。

客のひとりが店をでたとき、銃声が響き渡り、いま店をでた客が道に倒れる。悲鳴があがり、外にいた人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。店内の面々も、ドアにくっついて外の様子を見て、倒れた客がまだかすかに動いていることを確認する。店にいた清掃員の男が助けにでようと外に出ると、その男も撃たれて倒れる。パニックにおちいる店内。街からは不自然なほどに人の気配が消え、バルの中にいた人々は、狙撃を恐れて外にでられないようになる。テレビをつけてもこの事件のことはいっさい報じられておらず、一同はさまざまな憶測を重ねる。パリで起こったテロを思い出し、お互いをテロリストではないかとする疑い始める。エレナは疑心暗鬼になるほかの人々をいさめるが、緊張はたかまっていく。

そんなとき、トイレから物音がして、サトゥルはトイレを借りに来た男がいたことを思い出す。トイレのドアを開くと、男がうずくまっていた。男をトイレから出そうとしたとき、店の前にトラックが止まり、そこからガスマスクをつけた特殊部隊のような男たちが現れて、店のまえにタイヤを積んで火を点ける。するとテレビでは、マドリードの一角で原因不明の火事が起きて、政府がいったいを封鎖したというニュースが流れる。政府による隠ぺいを確信して憤る一同。彼らの背後にはトイレに倒れていた男が立っていた。しかし、男の体は異常に膨れ、目は白濁し、そのまま倒れて息を引き取る。男のスマホにはいった写真から、驚愕の事実が判明し、バルはさらに恐ろしい状況へと陥っていく。

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

おまえのようなホームレスがいるか

等身大なキャラクターであるエレナに比べると、他のキャラクターたちはキャラがたっている。ただ、そのキャラクターもどこかで見たことあるものであり、ストーリーもよくある密室サスペンスの域をでない。笑いどころは、と聞かれると難しい。全体としてあわてふためく登場人物たちがコメディ要素で、彼らが四苦八苦するさまを笑うのが正しいのだろうが、このあたりはヨーロッパの感性で、日本人にはあまりなじまないかもしれない。

とくべつ面白いキャラクターとは、イスラエルとヒゲ青年のナチョだろうか。

イスラエルは聖書?をよく引用する妄想執のホームレス。前半は人畜無害のキャラクターだが、後半で感染症の血清を自分だけが打ってからは、その狂気を徐々に見せる。最初は、妄想を語り他人をからかうけれども、どこか愛嬌を感じさせた。しかし、血清と銃を手に入れてからは、バルの支配者として振る舞うようになり、社会や周囲の人々に対する不満をぶつけるようになる。その口調は支離滅裂に聞こえるが、内容自体は整理されており、それまでの白痴な言動は演じられていたものだというのがわかる。

ラストはエレナとナチョを下水道で追いかけまわす完全な悪役となる。状況にアポカリプティックなものを感じているのか、言動はさらに狂いだしている。狂ってはいるが支離滅裂な精神性を持ってはいないのだろう。ただ、やはりキャラクターとしてはそれほど目新しいものがない。強いて言うなら、やたらムキムキなところだろうか。ホームレスとは思えないほどの肉体をしている。これもある種の笑いどころか。

ナチョはもうひとりの主人公といった立ち位置で、髭を生やしてノーパソをカタカタするいまどきの若者である。よく言えば人間味のある、悪く言えば情けない男として活躍する。基本的には他のキャラクター、とくにエレナの後ろに隠れていて、つねに状況から一歩引いている。銃を手に入れると調子に乗るし、ホームレスであるイスラエルの命を軽く見ている節もある。下水道に下りてイスラエルから銃を奪ってからは、イスラエル同様支配的になろうとするがうまくいかず、引き金を引こうと思っても引けない。絶望的な状況において、とても感情移入できる小物っぷりを発揮してくれる。そんな彼も最後には、自らの身を犠牲にしてエレナを救う。本作は彼の成長譚なのかもしれない。

彼の言動を注意してみると、エレナの体をべたべた触れていることがわかる。とんだセクハラ野郎である。エレナも気づいているようだが、状況が状況だけに言い出せないといった感じ。この細かさは好き。

 

はい、ジョージ

エレナたちがバルに閉じ込められた理由は、はっきりとは語られない。だが、作中の情報やオープニングで流れるウイルスや細菌の映像から、感染症であることは間違いないだろう。トイレに入っていた男は、アフリカに派兵されたときに新種の感染症に罹り、本国に帰ってきてから発病、なんとか血清を手に入れたものの、感染症によるパニックを恐れた政府により尾行される。政府は男が密室であるバルに入ったところで、浄化作戦を発動した、ということであろうか。

まあ、穴だらけである。男がそれまで辿ってきた道はいいのか? どうしてそんな場所から帰ってきた男を隔離していないのか? もっと早く手を打つべきでは? 気になる点を挙げれば枚挙に暇がないだろう。最初の狙撃で街から人がいなくなるのも早すぎる。これだと、どっきりでしたというオチのほうがいいじゃないだろうか。血清が店にあることを知っていたなら、防護を施して内部にはいり、血清を回収してエレナたちを隔離し医療施設に送ったほうがいいだろう。建物ごと燃やすのはいかがなものか。あまりにも、無理やりに作られ過ぎた場という感が強く、そうであるなら『ディヴァイド』くらい謎が多いほうが想像の余地があり面白かっただろう。

こうみると『REC』に似ている。あれもスペイン映画だった。

やはり既視感が強く、特筆して面白い箇所もないストーリー。うだうだした場面が少なく、破綻しているというほどメチャクチャでもないが。

ラストでエレナが排水口から顔を出す場面で、旧『IT』のペニーワイズを思い出した。実際、排水口から汚物まみれの女性がでてくると怖い。

 

 

まとめ

特筆するべき点もないが、とりたててつまらないわけもない作品。ある意味では一番記憶に残らないタイプかもしれない。まあ、なら見てもいいかも。