自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ディアボリカル

『ディアボリカル』

  (原題:The Diabolical)

2015年 86分 アメリ

評価 5点/10点満点中

 

 

小さなころ、ホラー映画の影響か、夜中に扉を開けるのが怖かった。この扉の先に知らぬ誰かが立っているのではないか、と考えてしまうのだ。深夜にトイレに起きたときなどは、扉をゆっくり開けて外に影がないことを慎重に確認していた。怖くなくなったのは、誰かがいたら全力で殴ってやればいいだろうと思うようになったからだ。

だが、知らない人間が自分の家にいるのが恐ろしいことには変わりない。たとえただの空き巣だとしても恐ろしい。スキンヘッドで光とともに現れる男ならなおのことだ。

本作は、たびたび家に出現する謎の男に、シングルマザーの主人公が悩まされるという話。普通のホラーとは異なる、ちょっとひねった設定は良いのだが、作中の事象やストーリーに対して説明不足というか投げっぱなしが見られる。また、肝心の出現する男があまり怖くないのも欠点か。

一風変わったホラーを見たいと思う人で、時間がありあまっているなら見てもいいだろう。

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

主人公のマディソンは、二人の子どもを抱えるシングルマザー。彼女は経済的な事情に頭を痛めており、またもうひとつ彼女を悩ますものがある。それは、家の中にたびたび出現する男たち。彼らは一様にスキンヘッドで、光とともに現れては光とともに消えていく。

深夜、自己破産について調べていたマディソンはいつの間にか眠ってしまう。ふと目を覚ますと、シャンデリアが揺れている。彼女は慌てて二階にあがり、子どもたちの安否を確認する。寝ている子どもたちに安堵した彼女が一回に下りてパソコンを閉じると、顔が半透明の膜で覆われた男が立っている。マディソンは後ずさり、目をつむる。再び目を開いたとき男は消えており、マディソンは電話をとるが、少し考えたあとそれを戻す。彼女は背後に立つ男に気が付く。男は自身を覆う膜を剥がすと絶叫する。マディソンも悲鳴をあげる。

集音マイクを手にした男と、カメラを手にした女がマディソンの家で調査を始める。男は鏡の向こうから出る音に気が付くと、二人は足早に家を飛び出す。彼らと入れ替わるように、息子のジェイコブと娘のヘイリーがサマースクールから帰ってくる。部屋で宿題をするヘイリーの背後に、スキンヘッドの男が立つ。マディソンは彼に、ママが怯えていると話す。

家にウォレスという女性が訪ねてくる。彼女は学校で級友を殴ったジェイコブのカウンセラーで、ジェイコブの暴力性や心身の状態、家庭環境などを調査している。一通りマディソンとジェイコブと話したウォレスは、次の面談で最後になると言う。

ジェイコブは、マディソンの恋人であるニックから、理科の個人授業を受けている。ジェイコブには高い知能があり、小学生でありながら中学生以上の理科を理解している。息子を迎えに来たマディソンは、明日の夜に会うことをニックと約束する。

車の中で、ジェイコブは昨日の夜にマディソンの悲鳴を聞いたことを告白し、引っ越しを提案する。また、ヘイリーが「アレ」と話していたことも伝えるが、マディソンは子どもたちを不安にさせないために彼の言葉を軽くあしらう。

その晩、夜食に起き上がったジェイコブがキッチンでピーナッツバターサンドを作っていると、稲妻のような光が発生する。ジェイコブを思わず皿を落としてしまい、全身がただれたアレを見る。皿の破片を踏みながら後ずさったジェイコブが目をつむってアレが消えることを祈ると、アレは光と消える。ジェイコブが足に刺さった破片を抜いているとき、ヘイリーがやってきて彼に消毒液を渡す。

朝、マディソンはジェイコブに彼の話をよく聞かなかったことを謝罪する。再び引っ越そうと言うジェイコブだが、マディソンは大丈夫だと返す。

二人をサマースクールに送り、庭いじりをしていたマディソンのもとに、不動産屋のハミルトンという男がやってくる。彼はマディソンの債権者から土地の買収を依頼されており、相場よりはるかに高い金額で買い取ると言う。渋るマディソンに、彼は債権者のカムセット社から返済が滞っていることを聞いたと言い、子どもたちの将来を持ち出して土地を売ることを迫る。マディソンは金額を聞いてから決めると答える。

サマースクールで、ダニーという少年がヘイリーに物を投げつける。それを見たジェイコブはダニーにやめるように注意するが、彼はジェイコムを挑発する。怒りを抑えきれずにダニーを殴ったジェイコブは、家でマディソンと口論になる。マディソンは、死んだジェイコブたちの父親も怒りを抑えきれなかったことを、口を滑らせ言ってしまう。二人の口論がエスカレートしたとき、自室にいたヘイリーのもとにアレが現れる。逃げ出したヘイリーと、部屋を飛びだしたジェイコブがぶつかる。

夜、ニックとくつろいでいたマディソンは、ジェイコブのことを彼に相談する。子どもたちの父親が、短気で暴力的な性格だったことを告白する。ニックも、前の仕事でやりたくないことをやらされて上司と対立し仕事をクビになったと語る。お互いを慰めあった二人は、そのまま寝室へと向かう。

ジェイコブに殴られたダニーが、友人を引き連れてマディソンの家にやってくる。ダニーは卵を壁に投げると、レンガを持って投げる構えをとる。そのとき、彼はカーテンの隙間からアレが覗いているのを見て、悲鳴をあげて逃げていく。

子どもたちが起きる前にニックは帰宅する。すると、家中の物が落ちたり浮かび上がったりする。目を覚ましたジェイコブは、天井から伸びる血の滴る手を見て母を呼ぶ。マディソンが駆け付けたときには、手は消えていたが、ヘイリーの部屋にアレが現れる。部屋を飛び出したヘイリーは母と兄とともに一階へと下りる。マディソンが二人から離れた隙に、壁から現れたアレが子どもたちの腕を掴む。腕には火傷のようなあとが現れる。アレを殴ろうとしたマディソンだが、まるでホログラフィックのように拳はアレを透過し、アレは消える。危険を感じたマディソンはニックに電話して、彼の家に向かう準備を急いで進め、子どもたちを家の外に避難させる。すると、庭に出たジェイコブの全身に黒い血管のような線が走り、彼は倒れる。マディソンがヘイリーの声を聞いて駆け付けると、今度はヘイリーも同じように倒れる。二人を家の中に運んだマディソンは911に電話するが、二人は立ち上がり線も消えている。二人は家の外に出ると、アレルギーのように同じ症状に襲われる。翌日、免疫学者が来るが、二人にはどこにも異常はないと言われる。

マディソンの家に現れる謎の男。外に出られなくなった子どもたち。この不可思議な現象に、マディソンと子どもたち、そしてニックが立ち向かう。そして、この怪現象の裏に隠された驚くべき真実が明かされる。

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

光っているのは頭じゃないです

家に現れる男の正体は、未来のジェイコブだったんだ! な、なんだってー!

この事実は意外で楽しめた。軽くまとめよう。

ニックが携わっていた「エコー計画」は、人間を任意の場所に瞬間移動させる実験で、国の主導のもと、囚人を使い人体実験をしていた。ニックはそれに嫌気がさして、カムセット社を出た。

エコー計画は凍結されるが、四十年後に再開。現在のマディソンの家がある座標に向けて囚人を送る実験を始める。ハミルトンを通してカムセット社がマディソンの土地を買収しようとしたのはこのため。実験は成功するが、なぜか過去に飛ばされる。

囚人たちはなんらかの手段(頭の傷からロボトミーか)でまともな思考能力や判断力を奪われている。また、実験は常に成功するとは限らず、膜を張った囚人や乾燥機から爛れてでてきた者など、異常をきたすこともある。

作中現在の出来事によって、マディソンは死亡、または消失。もともと暴力性の高かったジェイコブは、カムセット社への復讐を決意して、カムセット社を爆破しようとするも失敗。捕まったジェイコブはロボトミーかなにかを受けて過去へ飛ばす実験台にされる。そして自分が誰かもわからないまま過去に飛ばされるが、妹のことは無意識に認識していたのか、ヘイリーの前では比較的おとなしかった。

さて、ラストで治療されたマディソンが未来から帰還した理由だが、作中では語られていない。推測だが、一連の出来事を通して、または未来から来た男が自分だと気が付いたジェイコブは、勉学に励み素質もあって優秀な科学者となる。そして四十年後のカムセット社で要職について、実験の方針を変更もしくは中止させたのではないだろうか。つまり、事件を通してジェイコブの未来が復讐者から科学者へと変わり、カムセット社を含む未来すべてが変わった。科学者となったジェイコブは、過去から来た母を癒し過去へ送り返した。ジェイコブは優秀な科学者になったのか、過去に送り返されたマディソンには、囚人たちのような異常は一切見られなかった。このことからも未来が変わっていたのはわかるだろう。

しかし謎は残る。未来のジェイコブに触れたジェイコブとヘイリー、それにおそらくハミルトンもかかった外出アレルギー。作中では陽子加速器となんとかでてきたが、この原理の説明はなかったように思う。たぶん、引っ越せばいいじゃん、という視聴者の意見を封じるための必要措置だったのだろう。まあ、ハミルトンがはじめて来たときに早々と引っ越せばいいじゃんと思ったが。お金が無くても引っ越し費用くらいは工面してくれそうだし、マディソンが家に思い入れがあった描写もない。この外出アレルギーについて解釈するとしたら、囚人は座標から離れすぎないように体になにかを仕込まれていて、それが接触によって伝染したとかだろうか。制作側も深く考えていないだろう。

それと、腹を切られたマディソンのためにニックが地下室から上がって助けを呼びに行く場面。地下室を上がったところで、未来から何者かが来てニックは慌てて地下室に戻るのだが、これは一体誰だろう。ニックが地下室から出ることを阻止するように現れるのだが、現れ方が囚人たちとは異なる。変わった未来のジェイコブが、ニックが地下室から出ることによって過去が変わることを阻止するために来たのか。ともかく謎だ。

カムセット社の実験の元ネタになったのは、都市伝説のフィラデルフィア計画だろう。これは1943年、アメリカのフィラデルフィア駆逐艦エルドリッジ号を用いて、レーダーに探知されない特殊な磁場発生装置の実験を行ったところ、エルドリッジは光とともに姿を消して遥か離れたノーフォークに瞬間移動。さらに船内では、壁と一体化した船員やドロドロのゼリーのようになった船員、自然発火したり体が凍った者もいるなどの惨状が広がり、恐ろしい結果に実験は凍結された、というものだ。この実験は軍によって秘匿されたが、フィラデルフィアで実験に携わっていたという科学者が告発したことで明るみにでた。また、この実験にはあの二コラ・テスラが関わっていたとも言う。

もちろん、真っ赤な嘘である。エルドリッジはフィラデルフィアに寄港すらしていないし、WW2のあともギリシャに払い下げられて運用されていた。またレーダーに映らない磁場発生装置も開発などされていない。内容は恐怖と興味が沸きあがるだけに、ながらく生き残っている有名な都市伝説で、これを基にした映画も制作された。

本作の「エコー計画」とは、瞬間移動、被検体に起こる不可思議な事象、移動先にあらわれるまたは戻る場合は光が伴うなど、似通った点が多くある。

幽霊や悪魔系のホラーかと思えば、SFホラーという意表を突く作品だ。

 

diabolical=①非常に残忍な、邪悪な ②(俗用的に)不愉快な、ひどい

見出しはジーニアス英和辞典より

本作自体の感想にいこう。まずホラーとして見たときは怖くないの一言に尽きる。せっかく現れては消えるという特質をもっているのに、演出は多くの平凡なホラー映画と変わらない。要するに、気づけば背後に立っていたり、壁を突き抜けたりだ。SFホラーなのだから、もっと活かしてもよかったのではないか。それこそフィラデルフィア計画の都市伝説のように、壁にめり込んだ囚人や体が燃えた囚人が急に現れてもよかったと思う。そいつらがいっぱいやって来て阿鼻叫喚とか、絵面としては面白いのではないのだろうか。

未来のジェイコブも怖いくない。最初のほうこそよかったものの、ドアに手を挟んで悲鳴をあげるし、落とし穴には引っかかるし、後半なんか哀れさのほうが強かった。そのくせ耐久面は一丁前で、終盤に関してはジェイソンみたいになっていた。未来のジェイコブという設定だから、悪役に徹することができなかったのだろうか。

ジェイコブがマディソンたちを追いつめるシーンでは、なぜかスローモーションが使われているが、せっかくの緊迫したシーンにスローモーションはないだろう。派手なアクションや映像があるからスローモーションは映えるのであって、ただの追いかけっこにスローモーションはいらない。恐怖が迫る緊迫感が失われている。

むしろ、男たちの正体が分かった途端、殺そうと言い出したマディソンが怖い。

SFとして見たときは、本作はすごくふわふわしている。

せっかくのSFなのだから、はったりでもいいから科学を用いて現象の詳しい説明や考察をしてほしかった。結局、「エコー計画」の具体的な内容はわからなかったし、ジェイコブたちが発症した外出アレルギーも原因や理屈がわからない。そもそもマディソンの家を座標にしていした意味もわからない。タイムトラベルにともないパラドックスや過去・未来改変についても、製作の都合の良い部分だけ発生し、悪い部分では無視される感が強い。ラストなんて急にマディソンが帰ってきて、ポカンとした視聴者も多いだろう。自分も少しわけがわからなかった。展開的にジェイコブ闇堕ちルートだったし。

ホラーとしては怖いくないし、SFとしては中途半端。どうにも振り切れていないのが本作の欠点だ。設定などは面白いのだが、丁寧さが足りなかった。

タイトルは、本当に残酷なのはどいつだ!という感じなのだろうが、残念ながら作品の出来は俗用に近いものになっている。

 

 

まとめ

設定やまさかの展開はよかったものの、ホラーとしてもSFとしても物足りない作品。設定と展開だけが思いついて、あとの部分はノリと勢いで作ったかのような印象を受けてしまう。せめてホラー部分がもっと出来がよければ、佳作程度にはなっただろう。