自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 THE 4TH KIND フォース・カインド

THE 4TH KIND フォース・カインド』(原題:The Fourth Kind)

2009年 99分 アメリ

評価 7点/10点満点中

 

はや夫が妻を撮り続けるホームビデオとなった『バイオハザード』シリーズ。シリーズでいつの間にか超能力を使い始めたアリスを演じるミラ・ジョヴォヴィッチが主演をつとめる本作。彼女が演じるのは、アラスカのノームという街で恐ろしい事件に巻き込まれたアビゲイルという女性だ。題名を和訳すれば『第四種』。これだけでピンと来た人は相当のオカルトマニアだろう。ネタバレなしに前置きを書くには難しい映画なので、さっさとあらすじへ。個人的には面白い映画だったので、見ていない人はなるべく前情報なしに見ていただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

ぼやけた背景の奥から、ミラ・ジョヴォヴィッチが歩いてくる。彼女が演じる心理学者のアビゲイル・タイラー博士が2000年にアラスカのノームで実際に体験した出来事を、当時の映像や音声、インタビューを織り交ぜて映像化したのが本作だと、ミラは語る。そして、真実はあなた次第だとも。

映像が切り替わり、やせこけて目が落ちくぼみ、まるで幽霊のようなアビゲイル・タイラー博士本人が、本作の監督であるオラトゥンデ・オスンサンミからインタビューを受けている。彼女は自分に起きたことを語り始める。ことの始まりは、夫の身に降りかかったことを思い出すために、学者仲間の友人(作中の仮名ではエイブル・キャンポス)に会いに行ったことだと言う。

ミラが演じるアビゲイルが、自分に催眠療法をかけることを依頼する。目的は、アビゲイルの夫ウィルが殺された日のことを思い出すこと。彼女はその日、夫とベッドをともにして、真横で彼がナイフにより惨殺されるのを目撃していながら、犯人の顔を思い出せないでいた。娘のアシュリーは事件以来失明し、夫と仲が良かった息子ロニーはアビゲイルに対してきつくあたる。エイブルはしぶしぶ催眠療法を彼女に施すが、結局犯人は思い出せない。落胆したアビゲイルエイブルは休息をとることを進めるが、彼女はウィルの続けていた研究を続けなければと言う。

ウィルの事件から二か月後、ノームへと戻ってきたアビゲイルはカウンセリングの仕事を再開する。彼女は不眠症を抱える患者たちに共通点があることに気が付く。深夜の二時半から三時頃に目が覚めること。窓の外にいるフクロウに見つめられていること。フクロウは追い払おうとしても逃げ出さずじっと見つめてくること。そして気がつけばフクロウが部屋の中にいて、彼らを真上から見ていること。そして、子どものころに一度だけそのような経験があったこと。奇妙に思ったアビゲイルは、患者の一人トミーに、また明日来るようにと言う。

仕事を終えて子どもたちを迎えに行くアビゲイル。娘のアシュリーはウィルの事件以来視力を失い、それを理由にいじめられている。息子のロニーもアビゲイルの事件に対する向き合い方を責め、二人の間には険悪な雰囲気がある。

夫の書斎にいた彼女は、アウォロワ・オデュサミという人物の本とそれに挟まれたアウォロワの電話番号を書いたメモを見つける。ウィルの残した録音音声によると、原因不明の睡眠障害はノーム全体に広がって、その患者は300人に達しており、全員が同じ症状を示すのだという。

翌日、アビゲイルはトミーに催眠療法を施す。昨夜の記憶をさかのぼる彼は、フクロウを見たと語った直後、フクロウはもういないと言う。そして、ドアの外になにかいる、ドアが開く、と言ったあと、突然わめきだし暴れる。眠れない原因を見たのかというアビゲイルの問いに対して、トミーはその話は次回にしてくれと答えて呆然とした様子で去る。

その夜、911に女性からの通報がはいる。助けを求める女性の声と銃声を聞いて、オーガスト保安官が現場へと行く。現場の家ではトミーが銃を持って家族を人質にとり、アビゲイルを呼べと要求する。現場に駆け付けたアビゲイルに対してトビーは、「ほかに道はない」「眠れない原因が分かった」「先生もあれを見たらわかる」「これでもう見なくてすむ」と言う。トミーは「ズンアブー・イーター」という謎の言葉を残して、妻と子どもたちを射殺したあと、自らの頭も撃ち抜く。

警察署でオーガストが、トミーが凶行に走ったのはアビゲイル催眠療法のせいではないかと問い詰める。アビゲイルはノームで不思議なことが起きていると説明するが、オーガストは取り合わない。苛立ったアビゲイルは、ウィルの事件の犯人を見つけ出せていないこと、ここ数年でノームでは殺人事件や行方不明が急増していることを挙げてオーガストを責める。オーガストは苦々しげにウィルの件は解決済みだと言い、ウィルが行っていた研究を辞めるように忠告する。自宅に戻ったアビゲイルは、事態の解明を決意する。

 ノームで起きている異変、ウィルの死の真相、そして謎の言葉「ズンアブー・イーター」 はたしてこの「事件」の真相は?

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

信じるか信じないかはあなた次第です

そんなセリフで一世を風靡した芸人がいた。いや、いまでもちょくちょく都市伝説を取り扱う番組では見るのだが。

本作の最後でもミラ・ジョヴォヴィッチが同様のことを言うのだが、本作は完全なるフィクション、いわゆるモキュメンタリーと呼ばれるジャンルの映画だ。モキュメンタリーは架空のストーリーを実際のものであるかのように撮る手法である。もちろん、「実際の映像」や「実際の音声」もすべてフィクションである。ノームという街は実在するが、殺人や行方不明者が増えているのも嘘である。

「この物語は真実である」という手法は、『悪魔のいけにえ』でも使われているホラー映画では古典的な手法だ。真実味を持たせて恐怖をあおるこの手法が進化したものがモキュメンタリーであり、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』がこれを用いて記録に残る大成功をおさめた。

本作のモキュメンタリーとしての演出は非常に凝っている。自分は前情報なしで本作を鑑賞したので、ミラ・ジョヴォヴィッチが本人として出てくるところから驚いた。そしていきなり画面に出てくる幽霊のようなアビゲイル博士本人(本人ではない)。ときおり混じる「実際の映像」や「実際の録音」にもリアリティがあり、「世界〇天ニュース」の再現ドラマのようだ。アラスカという馴染みのない土地が舞台ということもあり、自分も序盤あたりではドキュメンタリーかモキュメンタリーかを判断しかねた。

モキュメンタリーではカメラワークが重要になる。多くの場合はリアリティだすためにホームビデオのように撮る。しかしながら映画として成立させなければならないので、ときおり「素人が撮った」というには不自然なカメラワークや構図が存在し、それが興ざめになってしまうことがある。本作は再現ドラマといいう手法をとっているので、映画的なカメラワークや構図があっても違和感がなく、その点も評価できる。

ケチをつけるのであれば、インタビューに答えるアビゲイル博士本人(本人ではない)があまりに流ちょうに話すところ、物語が進むにつれて、仕方がない面もあるのだが、リアリティがかけていく点だろうか。アビゲイル博士はあれほど壮絶な体験をしたのだから、嗚咽をもらしたり言葉に詰まったりしたほうがよかった。少なくとも、一般人がカメラの前で話すには流ちょうすぎる。再現ドラマや「実際の映像も」も突拍子のないものになる。とくにパトカーの車載カメラに写っていたUFOの映像は少しチープすぎる。

 

アーブダークショーン

本作の題名『THE 4TH KIND』の意味は「第四種接近」だ。ジョーゼフ・アラン・ハイネックというUFO研究家が提唱した空飛ぶ円盤とのコンタクトの段階が元ネタである。ハイネック自身が定めたのは三種までで、「第一種」がUFOを至近距離で目撃、「第二種」がUFOが周囲に影響を及ぼしたり痕跡を残すこと、「第三種」が宇宙人との交信である。そして「第四種」は宇宙人による拉致、いわゆるアブダクションだと、世間一般(オカルト界)ではされている。アブダクションされた人は、宇宙船に連れ込まれてよくわからない金属を入れられたりよくわからない手術や検査を施され、ときには記憶を弄られてもとの場所へと返される。正直、恒星間飛行をできる文明が人間の調査をするのになぜそれほど回りくどい方法をとるのかは理解に苦しむが、ロマンもあるし面白いしで良しとしよう。

自分は本作の途中まで、心霊か呪い的なホラーかと思っていたので、UFOがテーマだとわかり良い意味で裏切られた。なるほど、確かにメンフクロウの顔はグレイ型宇宙人に似ているかもしれない。

 

あぬんなき!

アヌンナキ。この言葉だけでご飯が三杯はいける、というオカルトマニアは多いだろう。どうでもいいことだが、ひらがなでエクスクラメーションマークをつけて書くと、一昔前のラノベタイトルみたいになる。知らない人のために、アヌンナキについて説明をしておこう。

古代宇宙飛行士説というのがある。世界各地にある古代遺跡の出土品や絵画に、宇宙服を着た人らしいものやロケットをモチーフにしたと思われるものが見つかっている。普通の人なら偶然の一致だろうとか、別に見えないけど、といった反応をとるだろうが、オカルトマニアは違う。オカルトマニアのこじつけ力をもってすれば、これらに描かれている人物が宇宙人であり、人間は彼らによって生み出された、という結論に達するまで三秒もかからないはずだ。そして、この古代宇宙飛行士説の大きな論拠となっているのがアヌンナキである。

アヌンナキは人類最古の文明を築いたシュメール人が崇めていた神々の総称である。ゼカリア・シッチンという古代宇宙飛行士説論者によると、シュメールの粘土板を解読した結果、アヌンナキは太陽系のどこかにある惑星二ビルから地球にやってきて、労働用の生物として遺伝子操作で人類を生み出したのだという。もちろん、惑星二ビルは確認されていないし、シッチンのシュメール語の能力も学者たちと比べればアマチュアレベルだ。

でもロマンがあるじゃないですか、ねえ。

本作でもシュメールの専門家オデュサミが登場し、熱心に古代宇宙飛行士説を語る。

本来はシュメールに降り立ったはずのアヌンナキが、なぜかアラスカの地で人体実験を繰り返している。彼らはいったいなにをしていたのだろう? 作中のアヌンナキの言葉から察するに、彼らは人類でなんらかの実験を行っており、それが最終段階にはいったということだろう。なんの実験なの?という問いには、わかりません、としか答えようがない。「ズンアブー・イーター」の意味もわからなかったしね。ともかくアヌンナキは神らしいし、救世主だなんだ言っていたので、悪い様にはならないんじゃないかな?適当だけど。それとも『幼年期の終わり』パターンかな?

アビゲイルがウィルは殺されたと思い込んでいたのは、たぶん精神的なショックで、これに関してはアヌンナキさんは無実だと思う。

 

 

まとめ

モキュメンタリーとしてはかなり凝っていて、オカルトに詳しくない人ならうっかり信じてしまう人もいるかもしれない出来だ。派手なシーンはないにも関わらず、退屈することなく楽しめる。ただ、テーマが古代宇宙飛行士説というスケールの大きなもののせいか、物語が進むにつれてリアリティが薄れるところ、謎のままで終わることが多すぎることだろうか。後者はモキュメンタリーなので仕方がないところもあるが。

作品としては出来がいいので、オカルトに詳しくない人に見せて反応を見るには良い映画だろう。