自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ウエストワールド

『ウエストワールド』(原題:Westworld)

1973年 88分 アメリ

評価 8点/10点満点中

 

テーマパークの面白さは、いかにその世界を再現できているかにかかっている。アニメの世界を再現したネズミの国や、魔法の国に入り込んだようなUSJのハリーポッターゾーン。またフィクションの世界だけでなく、日光江戸村のようにある時代の「日常」を再現した施設も、「非日常」へと我々を案内してくれる。

『ウエストワールド』は、西部開拓時代のアメリカを再現したテーマパークで、モブを演じるロボットが暴走し観光客を襲うというSFスリラー。友人に誘われてテーマパークにやってきた主人公は、本来はやられ役のロボットに執拗に命を狙われる。

半世紀近く前の映画だが、いま見ても十分に面白い作品で、カウボーイとロボットというアンバランスな組み合わせのガンマンの追跡は、のちの『ターミネーター』を思い起こさせる。

本作は2016年から同名でドラマリメイクが放送されている。2020年にはシーズン3も放映予定だ。古い映画に抵抗がないなら、ぜひ見て欲しい作品だ。

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

巨大テーマパークの「デロス」には三つエリアがある。古代ギリシャを再現したエリア、中世ヨーロッパを再現したエリア、そして西部開拓時代を再現した「ウエストワールド」。すべてのエリアにはロボットのキャストがいて、ロボットたちは与えられたシナリオ通りの行動をして、客たちにそれぞれの時代に沿った体験を提供する。一日千ドルという高額な料金だが、「デロス」を訪れる人は絶えない。

ピーターは、以前「デロス」に来たことがある友人のジョンに誘われて「ウエストワールド」を訪れる。人と見分けのつかないロボットに驚くピーターに、手を見ればわかるとジョンは教える。

エストワールドに入ったピーターだが、あまりにも精巧な世界になかなか溶け込めないでいる。半年前に離婚したピーターを元気づけようと彼を誘ったジョンは、ホテルにチェックインしたあと、酒場へ行くことを提案する。

酒場で飲んでいたピーターは、ガンマン型のロボットにからまれる。はじめは躊躇したピーターだったが、ジョンに言われてガンマンと早撃ち勝負をする。ピーターは勝利してガンマンは倒れる。あまりにリアルなロボットに、実は人間なのではと疑うピーターだったが、ここの銃は熱感知器がついていて人を撃てないとジョンが説明する。

「中世」では、ひとりの客が王妃をかけて黒騎士というロボットと戦うことになる。「デロス」の制御室では、ロボットに異常が見つかる。

ピーターはロボットの娼婦と寝たり、先日倒したガンマンに襲われたり、保安官に捕まったあとに脱獄をしたりと、ウエストワールドにのめり込むようになってくる。しかし、荒野でジョンが蛇のロボットに噛まれる。傷は浅くたいして気にしなかった二人だが、人を傷つけないように設計されているはずのロボットの行動に制御室は大慌てとなる。責任者のひとりが即時の閉鎖を提案するが退けられる。

酒場で大暴れしてそのまま寝てしまうジョンとピーター。いっぽう「中世」では、客が決闘の末に黒騎士に殺される。そして目を覚ましたピーターたちの前に、ガンマンが現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

家でママのミルクでも飲んでな

よく聞く煽り文句だが、元ネタとかあるのだろうか。

西部劇のような舞台と、暴走したロボットというアンバランスな組み合わせが、本作の面白いところだ。多くのフィクションでは表情豊かなカウボーイが、無機質な表情で銃を構えてやってくる。ガンマンロボットは機械的にピーターをつけ狙っているはずなのに、どこか生物的な執着心も見える。無表情を貫くガンマンだが、次第に微笑んでいるようにも見えてくる。機械でありながら生々しく、生々しいが機械的なのは、演じるユル・ブリンナーの技量だろうか。『ターミネーター2』のT-1000は、このガンマンのオマージュに思える。逃げても逃げても角を曲がるたびに目の前にいる。そんな恐ろしさがガンマンにはある。この映画の象徴だ。

ガンマンに相対する主人公のピーターは、ただの一般人である。カウボーイの姿をしているから忘れがちだが、ピーターは恐らくまともに銃を撃った経験もないようなパンピーである。酒場の喧嘩では大暴れしていたが、あれは相手が人を傷つけられないロボットだがらできたわけであり、撃った相手が本当にロボットなのかをかなり心配するような人間だ。そんな人間がユル・ブリンナーの顔をしたロボットに銃口を向け続けらる恐怖は想像を絶するだろう。しかも場所は人間よりロボットのほうが多いテーマパーク。早く家に帰ってママのミルクを飲みたい。

酸を顔にかけるというピンポイント過ぎる攻略法を聞いたピーター。ロボットのふりをして酸をかけたが、ロボットはそれでも彼を追い続ける。酸をかければ聴覚系統が狂ってしまうとのことだったが、熱感知能力もあったらしい。シアーハートアタックよろしくピーターを襲うガンマンだが、その弱点もシアーハートアタックと同じで、中世エリアへと逃げ込んだ彼は、松明の熱を利用してガンマンに勝利した。あんな狭い空間でもきちんと松明を焚いていたデロスの企業努力はかなりのものだろう。すごいススとかつきそう。

 

暴走までが仕様

本作ではロボットの暴走理由とかが語られない。ドラマ版ではそのあたりも掘り下げるのだろうか。ロボットだけが暴走というよりも、機械系統すべてに異常があったようなので、いまの時代ならAIの暴走だとかコンピュータウイルスだとかがあるだろうが、この時代だと主流はパンチカードを使ったコンピュータなので、そういったアイデアが存在しなかったのかもしれない。

本作では題名通り、デロスの内にウエストワールドが物語の中心であるが、ロボットの暴走が決定的となる黒騎士の決闘を挟むので、中世もけっこう登場する。正直言っておまけにするにはもったいないくらい描写が細かい。宴会の様子や衣装など、かなり時代設定に忠実なのではないだろうか。鎧もフルプレートアーマーではなく、兜とチェインメイルなのが良い。

脇役である眼鏡の客も面白い。あきらかに冴えない中年である彼は、カウボーイ姿になると何度も鏡の前で銃を抜いて見せる。某タクシードライバーみたいだ。彼は最終的に街の保安官になるのだが、主人公以外の登場人物にもストーリーを与えているは良い。

本作にも欠点はある。一番感じたのは、ストーリーの比重の悪さだ。ピーターたちがウエストワールドを堪能する描写が長く、ガンマンからも逃亡劇が始まるのはけっこう後半になってからだ。追いかけっこが始まってからの展開はかなり駆け足で物足りなさがある。ここの比重を大きくして、さまざまなロボットを登場させたほうがよかった。88分という短めの映画なので仕方ないのかもしれない。

 

 

まとめ

古さを感じさせない設定とキャラクターをもつ作品。現代にドラマリメイクしても、けっして古臭さを感じないだろう。ウエストワールドに行ってみたが、ユル・ブリンナー顔のロボットはやめてほしい。