自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲

悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』

  (原題:Texas Chainsaw Massacre 3D)

2013年 92分 アメリ

評価 7点/10点満点中 

 

悪魔のいけにえ』といえば、言わずとしれたスプラッター映画の金字塔であり、のちに続く『ハロウィン』や『13日の金曜日』と並ぶホラーの名作だ。本作はいまなお最恐のホラー映画と言われており、日本での知名度は『13日の金曜日』に劣るが、『バイオハザード7』でも『悪魔のいけにえ』を想起させる場面が存在するなど、影響力は非常に強い。

狂気じみたソーヤ―家、おぞましい美術、そして突然現れては轟音とともにチェーンソーを振り回すレザーフェイス。四十年以上前に作られたとは思えない完成度は、いつの時代でも通じる恐怖をはらんでいる。

本作『悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』は、シリーズ七作目だが、『2』以降の作品とはパラレルワールドになる。自分は初代『悪魔のいけにえ』しか見たことがないので、シリーズについては語れない。

ストーリーは初代のラスト直後から始まるので、初代を見た人にはおススメできる出来だとは思う。初代『悪魔のいけにえ』を見ていない人は、ぜひそちらを視聴してもらいたい。

本作は劇場公開時、『飛び出す 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』という題名だったらしい。原題からもわかる通り、本作は3D作品として公開された。ふざけたタイトルではあるが、中身はシリアスで面白いので安心してほしい。

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

悪魔のいけにえ』で生き延びたサリー。通報を受けたフーパ―保安官は、ソーヤ―家へと向かう。保安官は、レザーフェイスことジェド(ババ)・ソーヤ―を引き渡すことを求める。ジェドの父ドレイトンは保安官の要求を一度は拒否するが、祖父?に諭されてジェドを引き渡すことに決める。

そこにバート・ハートマン率いる武装した街の住民が現れ、ソーヤ―家に火を放つ。街の住民とソーヤ―家の間で銃撃戦が繰り広げられる。ソーヤ―家の面々は次々に倒れていき、家は全焼。勝利した住民たちは焼け跡を漁り、戦利品としてジェドのチェーンソーを見つける。浮かれる住民たちの中、ミラーという男が、家から脱出した女と赤子を見つける。ミラーは命乞いをする女から赤ん坊をひったくると、女を蹴り殺す。ミラーはそのまま車に赤子を隠して、ソーヤ―家討伐の記念撮影に加わる。

時が経ち、スーパーで働くヘザー・ミラーは、同僚で親友のニッキー、彼氏のライアン、そしてニッキーの彼氏のケニーの四人で、ニューオリンズへの旅行を企画している。しかしそこに、ダラスの弁護士事務所から祖母の死の知らせと、遺産の相続についての手紙が届く。ヘザーはそこで、自分がミラー夫妻の実の子ではないことを知り、そのことについて両親に詰問する。だが両親はヘザーの出自については語らず、両親の態度に激怒したヘザーは単身でテキサス州ニュートへと向かうことを決める。彼女を一人で行かせるわけにはいかないと、ライアン、ニッキー、ケニーも、ニューオリンズへ行く前にヘザーとともにテキサスのニュートへ向かうことにする。

途中のガソリンスタンドで、ダリルというヒッチハイカーを拾う。彼は彼女とけんか別れして置いて行かれたらしい。彼を加えて五人になった一行は、テキサス州ニュートの街に着く。

祖母の家は門つきの豪邸で、思いもよらない遺産にヘザーたちは浮かれる。やって来た担当弁護士のファーンズワースが現れて、ヘザーに家の鍵束、書類、そして彼女の祖母であるヴァーナの手紙を渡す。ヘザーはどうやって自分を探し当てたのか、と彼に問うが、ファーンズワースは昔から知っていたと奇妙な返事をする。手紙は必ず読めという忠告を残しファーンズワースは去る。

中に入った五人は、想像以上に豪華な邸宅に興奮する。他の四人がビリヤードなどに興じる中、ヘザーは庭に建てられていたソーヤ―家の人々の墓を見つける。ヘザーは祖母の墓に感謝を述べる。

ヘザーたちは夕食の買い出しのために街へと向かうことにするが、ダリルは乗せてくれたお礼だと言って夕飯の金を渡し、荷物の整理のために残る。ヘザーたちが見えなくなると、ダリルは家探しを始め、食器や燭台などをカバンにどんどん詰めていく。

街で買い物をしているヘザーは、若い警察官のカールや、町長となったハートマンと出会う。町長はヘザーがヴァーナの家を相続したことを聞くと、顔を少しゆがめる。

家探しを続けるダリルは、厨房の隠し扉と、地下へと続く階段を見つける。地下のワイン貯蔵庫には頑丈な鉄の扉があり、扉の前には誰かが食べた食事のプレートが置いてある。ダリルはお宝が眠っていると思い扉を開けようとするが、差し込んだナイフが折れてしまう。意地になっダリルが工具を探していると、突如レザーフェイスが現れて彼を撲殺する。

家に帰ってきたヘザーたちは、ダリルに家を荒らされたこと知るが、被害が小さいことを確認すると、予定通りパーティーを始める。ビリヤードに興じるライアン、そのライアンを見つめるニッキー、厨房で料理をするケニー、そして飾られた家族の写真を見たヘザーは、祖母がつけているネックレスの形が、自分の胸にあるアザの形と一致することに気が付く。

地下に潜んでいたレザーフェイスが、再びチェーンソーをうならせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

パラレルワールドは便利な言葉

本作のような外伝作品は、たいていパラレルワールド扱いだ。ジェイソンもパラレルワールドなら、コールドスリープで未来へと行く。

本作の冒頭で、自分はどうも登場人物に混乱してしまった。『悪魔のいけにえ』では、ドレイトンはレザーフェイスの父ではなく兄だったはずだし、彼ら兄弟の父親は出てこなかった。爺さんはよぼよぼでカウボーイハットを被っていた本作のキャラとはイメージが違う。ていうかソーヤ―家が多すぎる。新年の集まりか。さらにいえば、ソーヤ―家の祖母って家でミイラになってたよね、どうして別で暮らしているんだろう。このあたりは近年の再設定でいろいろあったらしい。自分はパラレルワールドだから、で済ましてしまった。

もう一つ疑問がある。本作の時代設定だ。『悪魔のいけにえ』が1974年の作品で、時代設定もそれくらいだとする。本作は初代からおそらく二十年後くらいの設定なので、90年代前半か半ば。そのつもりで見ていたのだが、後半でスマホが登場した。それまでもあまり近年のアイテムが出てこなかったので、少し混乱してしまった。でも、パラレルワールドだからね。仕方ないね。

最初、ダリルは初代のヒッチハイカーと同じように狂ったソーヤ―家の一員かと思ったが、そんなことはなかった。こいつがレザーフェイスを目覚めさせて操るのかな、なんて考えていたのだが、ただのコソ泥でした。これは初代を見ていた人へのミスリードだろう。

 

 

テーマは家族愛です

邦題の副題になっている「レザーフェイス一家の逆襲」。まるで劇場版クレヨンしんちゃんの副題みたいだが、最後まで見ればこの副題に納得するだろう。

本作でのレザーフェイスの印象は、突如現れる暴力と死の象徴だった初代のものとはかなり異なる。前半での行動こそ初代を踏襲したものだったが、作品自体が冒頭からソーヤ―家を同情的に描いていることもあり、突然現れるのは怖いが、初代に見られる狂気じみたものは感じなかった。後半になるにつれてソーヤ―家とヘザーがリンクし、視聴者がレザーフェイスを応援するという奇妙な現象が発生する。もっとも、スプラッター映画を見る人なら、イチャイチャしているカップルの背後に立つ殺人鬼をいつも応援しているだろうが。この点で、レザーフェイスのイメージが崩れた、という人もいるかもしれない。

レザーフェイスは失った家族を再び手に入れて、家族の仇もとれてめでたしめでたしということだ。エピローグできっちりミラー夫妻を殺していることから、ヘザーもしっかりとソーヤ―家の血が流れていたんだな、と思う。そこまで簡単に育ての親を殺せるのかと思う人もいるかもしれないが、ソーヤ―家の血だから仕方がない。

レザーフェイスはジェイソンとは違い、怪力をもつがあくまで生身の普通の人間である。また知的障害を持ち、作中でも語られている通り精神年齢は八歳。もともと初代でも、レザーフェイスは恐ろしいだけの存在でなく、どこか可愛げもあり、狂った家庭環境の被害者感が強かった。最後にわりとまともであろう家族が手に入ったことで、視聴者も安心したのではないだろうか。無関係の人々がいろいろ犠牲になったが。この犠牲で一番かわいそうなのはケニーだろう。実は肉体関係があったニッキーとライアン、盗みを働いたダリル。ソーヤ―家の全滅の原因をつくったハートマンと彼に協力した子分やマーヴィン。それに比べるとケニーは料理を作っていただけである。それなのに彼は生きたままかぎ爪に吊るされて胴体を切断される。一目で死ぬとわかる見た目をしているが、意外といい奴だっただけに可哀そうだ。

 

 

テキサスでは日常茶飯事だぜ!

前述したとおり、本作は『悪魔のいけにえ』とはかなり趣が異なる。初代では画面中に満ちていた狂気がまったくない。ヒッチハイカーやドレイトン、祖父や祖母のミイラなど、狂気を象徴するものがごっそりと抜け落ちてしまっているので、スプラッター映画としては尖った部分がなくなってしまった。

ていうか序盤の街の住民が一番怖い。やはりテキサスだからだろうか? 警察官の応援よりも早く、武装した住民が来て、警察官の制止を振り切り家屋に火をつけ銃撃戦を交える。たしかにソーヤ―家は墓荒らしや人殺しをしていた一家だったが、いくらなんでもやりすぎである。何気にヘザーの育ての親も、ロレッタを蹴り殺し赤子を奪うというとんでもないことをやってのけている。そして全員が無罪放免、主犯にいたっては町長にまで出世して、その息子が警察官なのだから、ニュートの街は世紀末だ。

街の住民の悪辣さが存分に描かてれいるので、やはりレザーフェイスは怖くない。ダリルやケニーを襲ったときは、初代のような怖ろしさがあったが、それ以降はもはやヒーロー扱いである。ヘザーが町長に捕まったときなど、視聴者はナッパの戦闘力を目の前にして悟空を呼んだクリリンの気分だ。

個人的には、カールが実は町長の息子の悪役なのがよかった。スプラッター映画ではたいていの場合、若くイケメンの警察官は善人なので、予想がつかず驚いた。彼はあのあとどうなったのでしょうね。レザーフェイスの復讐対象リストからは外れているようだが。ちなみに彼を演じた俳優は、クリント・イーストウッドの息子スコット・イーストウッドである。どことなく面影があるね。

保安官の行動には賛否があると思う。見ているほうもレザーフェイス側に感情移入をしているが、さすがに見逃すのはどうなのだろう。そいつかなり殺してますぜ。基本的には善人として描かれている彼だが、冒頭のソーヤ―家の虐殺も、本編の虐殺も止められていないので、結果なんの役にもたっていない。そもそも彼がハートマンたちに罰を下していれば、ケニーも死ぬことはなかったはずだ。

 

 

まとめ

本作は『悪魔のいけにえ』ではあるが、『悪魔のいけにえ』ではない作品。初代の猟奇的な雰囲気は損なわれてしまっているので、そこが気に入っている人には物足りない作品だろうが、出来としては良作だと思う。近年、古いスプラッター映画のリメイクや続編がけっこう作られているが、出来は残念だったりすることが多い。本作も続編としては微妙かもしれないが、レザーフェイスのファンフィルムとしては良い作品だろう。

 

 

余談

本作には『悪魔のいけにえ』の俳優陣が出演している。ドレイトンを演じたのはヒッチハイカーの双子の兄弟チョップトップを演じた俳優。初代の祖父を演じた人も本作で祖父役。ソーヤ―家の一員には初代でレザーフェイスを演じた俳優。そしてヴァーナ役は初代で逃げ切ったサリーの俳優さんである。私はひとつも気が付きませんでした。