自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 フラッド

『フラッド』(原題:Hard Rain)

1998年 97分 アメリ

評価 8.5点/10点満点中

 

 

梅雨が去ってから猛暑が続いている。ここ数年は、梅雨には大雨による災害が発生し、真夏には熱中症が猛威を振るっている。自分が小さい頃はここまでではなかった気がするが、これも温暖化とか気候変動の影響だろうか。一昨年の九州豪雨と昨年の西日本豪雨は非常に大きな被害をもたらし、行政やテレビは積極的に避難を呼びかけるようになった。

本作『フラッド』は、洪水に見舞われた町で繰り広げられる警備員の主人公と彼を襲う強盗団、そして警察の戦いを描いた作品である。ディザスター映画というよりは、災害を舞台としたクライムアクション映画。小さな町のセット作り水に沈めたという派手な予算の使い方で、見事に洪水に見舞われた町を再現している。水場ならではのアクションやダレることなく視聴者を飽きさせない展開。個人的にはかなり面白い作品。見る機会があるのなら、ぜひとも見て欲しい。

 

 

 

  

あらすじ(ネタバレなし)

大雨に見舞われているインディアナ州のハーディングバーグ。警察官のマイクは、保安官選挙に落選したことを市長にからかわれたり、かたくなに避難しないヘンリーとドリーンの夫妻などに手を焼きながらも、二人の部下とともに仕事を続ける。ダムでは職員がマイクと連絡をとりながら、段階的に放水をして決壊を防いでいる。

警備員のトムは、相棒のチャーリーとともに、大雨のなか車で現金の輸送をしている。チャーリーのミスで車が水路にはまってしまう。本部からは救出まで二時間かかると言われた二人が避難しようとしたとき、一台の車が彼らに近づく。車に乗っていたのは、ジムという男が率いる強盗団で、ジムは穏便にことを済ますため、救助を装ってトムたちに声をかける。しかし、ジムたちに違和感を覚えたトムは拳銃を抜こうとする。それを見た強盗団のひとりが発砲し、彼らは予期せぬ銃撃戦を始める。トムが撃たれたチャーリーを抱えて輸送車の後ろに隠れると、ジムは仲間たちを制止して輸送車に迫る。金を置いていけば見逃すというジムの言葉に返事はなく、彼は輸送車の後ろに回る。そこにはチャーリーの死体だけがあり、現金はトムが持ち去ったことに彼は気づく。

トムは墓地に逃げ込み、そこの墓のひとつに現金を隠す。ジムたちはボートとジェットスキーを盗み出し、トムたちを追う。彼らに見つかったトムは学校へと逃げ込む。追いかけて来たジェットスキーを奪ったトムは学校を脱出して教会に逃げ込む。教会ではステンドグラスの修復作業が行われており、ステンドグラスを見ていたトムは何者かに殴られて気絶する。

トムは目を覚ますと、自分が警察署内の牢屋にはいっていることに気が付く。カレンという女性が、マイクたちにトムは泥棒だと主張する。彼女がステンドグラスの修復にあたっていたところ、彼が教会に侵入してきたので、殴って気絶させ、警察署まで運んできたのだと言う。自分は警備員で強盗団に襲われたのだとトムは主張し、輸送車で運んでいた現金300万ドルはポートマンという男の墓に隠したことも明かす。部下のひとりにカレンを避難所まで送るよう命令したあと、マイクはトムの話を確かめるためにもうひとりの部下とともに現金輸送車へと向かう。トムは牢屋に取り残される。

水に浸かった町で、300万ドルをめぐる戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

時間の相対性は映画で感じろ

本作最大の魅力は、なんといってもダレることのない展開だろう本編は百分弱だが、体感的にはもっと早く感じられた。不思議なことに映画の内容によって鑑賞時間は相対的に変化する。例えば『アベンジャーズ/エンドゲーム』は三時間あるが、終わればあっという間に感じてしまう。一方で以前紹介した『ネイビーシールズVSエイリアン』は90分弱と『エンドゲーム』の半分以下だが、エンディングが始まったときに、やっと終わったという安堵すら感じるほど長かった。時間の遅れを感じたいなら、光速に近づくよりもクソ映画を見るほうがお手軽だ。

物語はまず道路が水没しているところから始まる。いわゆるディザスタームービーと異なるのがここだ。多くのディザスタームービーはまず平凡な日常を映す。しかし本作は初めから非日常を描くことで、物語が進むまでの尺を省いている。そして十分でほとんどのキャラクターを登場させて、二十分で三百万ドルをめぐる戦いを始める。舞台は学校から警察署、街中からヘンリー宅や墓地へと目まぐるしく移る。この舞台の多さを可能にしているのが、飛行機の格納庫に作られた六百万ドルのセットだ。

本編で登場人物たちが求め争う三百万ドルの二倍の予算がかかったセットは、CGで背景を作ってしまう昨今の映画にない臨場感がる。とくに教会での攻防は、目の前で繰り広げられているショーのようですらある。本作の予算は七千万ドルで、同年公開の映画では『プライベート・ライアン』がほぼ同じ金額。ちなみに同じく1998年の超大作映画『アルマゲドン』は千四百万ドルと、倍の予算がかかっている。

展開面で一番面白いのは、マイクの豹変だろう。善玉だと思っていたマイクが敵役となり、それまで争っていたトムとジムが思いがけない共同戦線を張ることになる。ジムがトムを墓地へと追いつめた時点であと三十分以上残っていたので心配になったが、むしろ本編はここからだと言ってもいいだろう。敵を強盗団と警察の二段構えにして、物語に起伏を作っている。

マイクの豹変には、あまりにも突然だと感じる人もいるかもしれない。それゆえに驚きがあるのだが、この展開を踏まえて最初からマイクを観察すると、彼の豹変もさもありなんと思うだろう。

 

仏の光より金の光

オープニングで、マイクは保安官選挙に落ちていることがわかる。そのことについて市長から嫌味を言われ、ヘンリーとドリーンからは悪態をつかれ、彼らに対する陰口を叩く。オープニングの描写から、彼は自分の現状を不満に思っており、けっして善良なだけの警察官ではないとわかる。いわばマイクは普通の人間だ。自分に積み重なるストレスに苦しめられ、そんなときに大金が手に入るチャンスがあれば善悪の振り子が簡単に揺れてしまう。そのうえ町は水に沈んでいて、自分は警察官という立場。悪に傾くには十分すぎる条件だろう。映画の悪玉というと根っからの悪人が目立つが、彼のような人間味のある悪人は、展開の意外性や豹変したときの恐ろしさを生み出すことができる。小物っぽいところを含めて、マイクのキャラは好きだ。

強盗団のリーダーであるジムは、モーガン・フリーマンが演じているというだけで好きになってしまう。主人公のトムと共闘するとはいえ、彼はけっして善人ではない。トムとの共闘も打算が大きい。モーガン・フリーマンの貫禄か、後半は彼がヒーローのように見えてくる。しかし最後にはちゃっかり金をせしめて逃げるところで、彼はやっぱり悪党なんだなと思わせてくれる。作中のトムのように、やられたなという顔をしてしまうだろう。

ほかのキャラクターたちについては、良くも悪くも脚本を進めるための個性だろう。映画を楽しむ分には、つまらないと気になるほどではない。ただ、若い警察官のフィルについては気になる点がある。彼はカレンのことを思いジムの行動に反発するのに、そのあとの場面では、ジムを乗せたボートの運転を黙々とこなしていたり、かと思えばジムに反発してトムを助ける。彼だけは行動に大きなブレがある。

 

 

まとめ

まさしく急流のように進む展開に、あっという間に見終わってしまう良質なアクション映画。心に残る類のものではないが、ポップコーンムービーとしては一級品だろう。