自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ジョン・カーペンターの要塞警察

ジョン・カーペンター要塞警察

  (原題:Assault on Percinct 13)

1976年 90分 アメリ

評価 5.5点/10点満点中

 

 

『ハロウィン』や『遊星からの物体X』を世に送り出したジョン・カーペンター。ホラーやSFのイメージが強いカーペンターだが、本作『ジョン・カーペンター要塞警察』のようなアクション映画も作っている。十万ドルという少ない予算ながら一定の評価を得た本作を経て、カーペンターは『ハロウィン』を制作する。

警察署を包囲したギャングを、主人公の警察官が護送中の犯罪者とともに撃退する、というあらすじは、以前紹介した同監督の『ゴースト・オブ・マーズ』と似通っている。タイトルから想像されるほど、派手なドンパチシーンは多くない。キャラクターに関しても気になる点があるのだが、それでもだれることなく観れてしまうのはカーペンターの技だろうか。

派手なアクションは見られないが、昨今では見られない渋い映画。カーペンター史のひとつとしても、気になる人は見てはどうだろう。

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

カルフォルニア州のアンダーソンで、警察隊によってギャングの少年たちが銃撃され、六人の少年が命を落とす。事件を知ったギャングの生き残りたちは、自らの血をガラスの瓶に注ぐ血の儀式で、復讐を誓い銃を手に取る。

警部補に昇進したばかりのイーサン・ビショップは、初仕事として、引っ越しを進めているアンダーソン署の一日責任者を命じられる。署でイーサンを出迎えたのは、警察官がひとりに、リーとジュリーという女性事務員。イーサンは押し付けられた仕事を不満に思いながらも、引っ越しの準備を手伝う。

警察官のストーカーは三名の囚人の護送を始める。囚人のひとり、ナポレオン・ウィルソンは凶悪犯として、手錠のほかに鎖にまでつながれている。ひと悶着ありながらも、順調に護送バスは進んでいたが、囚人のひとりの体調不良のために、ストーカーは最寄りのアンダーソン署に立ち寄ることにする。

街で無差別な襲撃を続けていたギャングたちは、移動販売のアイスクリーム屋を撃ち、その場にいた少女も撃ち逃亡する。少し離れて電話をしていた少女の父親は倒れている娘に気が付き、駆け寄るが彼女にすでに息がないことを確認する。近くに倒れていたアイスクリーム屋は、運転席に銃があることを知らせると息絶える。父親は銃を手に取ると、車でギャングを追跡する。銃撃戦でギャングのひとりを射殺した父親だったが、残りのメンバーに追いかけられて這う這うの体で逃げ出す。ギャングは彼を追跡する。

アンダーソン署に着いたストーカーをイーサンが迎える。囚人たちを独房に入れて、ストーカーは警察医に連絡をとるが、時間がかかると言われ苛立つ。彼が電話をしているときに父親が駆け込んでくる。イーサンたちは話を聞こうとするが、彼はショックで放心状態にあり、イーサンは彼を寝かせる。

医者を待つことに限界が来たストーカーは、囚人の護送を再開することを決める。彼が独房に向かうと、署内の電気が落ちる。署に残っていた警察官のひとりが外にでたところ、彼はギャングに撃たれて死ぬ。同じころ、バスに乗ろうとしたストーカーたちをギャングが襲い、ストーカーや護送の警察官、体調不良の囚人が死ぬ。なんとかナポレオンともうひとりの囚人を助けたイーサンは、彼らを独房に戻す。

徐々に集まり始めるギャングは、ついには署を包囲する。外との連絡手段がなく、周囲に民家も少ないアンダーソン署は陸の孤島になる。イーサンはふたりの囚人を解放し、共同戦線を張ることを決める。

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

大統領の娘にしちゃあオッパイがでかいな

導入に書いた通り、本作には派手なアクションはほとんどない。一番の見物である、警察署に侵入しようとするギャングたちを撃退するシーンですら、窓からゾンビのようにのろのろと入ろうとするギャングたちを、イーサンたちが一方的に撃つだけだ。その様子は、ゲーム『バイオハザード4』を思い出す。小屋を囲んだガナード(ゾンビのようなもの)をNPCとともに撃退するチャプターだ。上記の大統領云々は、そのNPCがヒロインに対して言った名台詞。本作に特別胸の大きな女性はでない。

次に派手なのは、最後の爆発だろうか。といっても、閃光くらいしか確認できないが。銃弾が尽きたイーサンたちは地下へと退避し、署内に置いてあった爆薬でギャングの一掃、さらにくっつけた照明弾を使い救援を呼ぶことにする。どうして署内に爆薬があるのかは謎だ。まあ、カルフォルニアの警察には爆薬くらいあるだろう。カルフォルニアだし。

そのほかには特筆すべきアクションシーンといえば、護送直前のナポレオンが、自分を理不尽に扱っていた警察官を、自身を縛っていた鎖を使い転倒させたシーンくらいか。鎖を相手の体に絡ませて足をすくうアクションは、不気味なナポレオンの雰囲気も相まって、彼の底知れなさを感じさせた。わりとすぐに底を感じることになるが、それは後述。

予算をふんだんに使った大作映画のアクションと比べると、どうしても見劣りしてしまうが、そこがかえって銃撃戦の生々しさがある。また、本作のギャングたちには個人の名前がなく、無表情でサイレンサーを付けた銃を構えて警察署に詰める様子は、殺人マシーンの群れのようで恐ろしい。電気を落として署を孤立無援の状態に置いたり、車での逃走を警戒してあらかじめ後部座席に忍んでいるところは、殺す気をビンビンに感じることができる。

派手なシーンは少なくとも、創意工夫で魅せるアクションを作り上げている。やはりカーペンターらしいのか、ホラー寄りのアクションだなと感じた。

 

下町のナポレオン

は、いいちこのことだ。この場合のナポレオンとは高級ブランデーのナポレオンのことで、下町のように親しみやすいけどナポレオンのように美味しいという意味だろうか。本作のもうひとりの主人公、ナポレオンの名前はどうも通り名とかあだ名の類らしい。由来はあとで教えてやると、ナポレオンはたびたび言う。ラストの地下へと退避して、ギャングたちを爆弾で一掃する直前でも、イーサンに由来を尋ねられて、あとでと答えている。

結局、最後までわからなかったよ。

教えろよ。どうしてナポレオンなんだよ。

このナポレオンというキャラクターには謎が多い。凶悪犯で鎖に繋がれていたのだが、ギャングの襲撃の際には積極的にイーサンに協力しているし、リーに対しても非常に紳士的に接している。最後にはイーサンとの間に友情が生まれるし、リーとのロマンスを感じさせるカットもある。どういった犯罪を犯したのかも謎だし、名前といい、よくわからんキャラである。

それに比べると、リーは非常にキャラがたっている。登場時から、彼女に肝がすわっていることはわかるのだが、展開が進むにつれて女傑のごときかっこよさを見せる。迫りくるギャングを銃で撃退しながらナポレオンを解放し、片手を負傷しながらも、最後まで銃を握り続ける。片手でマッチに火を点けるところなど、イーサンやナポレオンとは比にならないかっこよさがある。据わった目でギャングを撃つ彼女は、ギャングの女ボスのようだ。

主人公のイーサンはそれほど個性的ではないテンプレ警官主人公キャラだ。強いて言うなら、黒人というところと、自らまさしくブラックジョークを言うところがキャラの肉付けだろうか。それも一回きりだが。

 

 

まとめ

四十年以上の前の作品で、華々しさこそないものの、カーペンターらしさが見られる。ナポレオンのキャラが定まっていないこと、敵に不気味さがあるいっぽうで、アクションではカカシ同然だったことが残念。