自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ゼイリブ

ゼイリブ』(原題:They Live)

1998年 96分 アメリ

評価 7.5点/10点満点中

 

 

春のジョン・カーペンター祭り!

レプティリアンをご存じだろうか? 日本語にすると「爬虫人類」といったところで、二足歩行の爬虫類型宇宙人が人間社会の上層部を支配しているという陰謀論だ。彼らはときには人間に化けることもある。イギリス王室や歴代アメリカ大統領もレプティリアンだと陰謀論者は言う。超高度な文明をもつ宇宙人が、ジュラル星人もびっくりな回りくどい方法で地球を乗っ取ろうとすることに驚くが、陰謀論としてはなかなか面白いものである(陰謀論はあくまでフィクションとして楽しみましょう)。

本作『ゼイリブ』も、人類に紛れ込む宇宙人が地球を支配しているという陰謀論的設定だ。それほど強大な宇宙人に少数で立ち向かう主人公や、明らかに抜けが多い設定などのツッコミどころもあるが、それを上回る勢いと面白さがある作品でもある。また、本作には現代社会批判という側面もあり、ともすれば馬鹿らしくに見える本作のストーリーや演出がそうした側面にあっているのかもしれない。シリアス直球では生まれなかった本作の衝撃は、多くの視聴者の心に残ることだろう。

 

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

世間では不況が続き、貧富の差が拡大したアメリカ。仕事を求めてロサンゼルス(多分)へとやってきた主人公(名前はNadaらしいが作中では言及されない)は、職業斡旋所でも仕事にありつけず、飛び込みではいった工事現場でようやく仕事にありつく。そこで知り合ったフランクという黒人男性に誘われて、貧しい人々が共同生活を送るキャンプで生活することにする。キャンプに置かれたテレビを突然映像がジャックされ、謎の男がメッセージを流す。メッセージは要約すると、「我々の世界は仮眠状態にさせられている。我々は共犯者になっている。彼らの目的は人々から意識を奪い、我々を欲に目がくらんだ物質主義者へと変えること。彼らは隠れている」とのこと。苛立った中年男がチャンネルを変えてしまうと、主人公は街で先ほどのメッセージと似たようなことを言っていた説教師と、フランクに紹介されたギルバートという男が、話をしながら近くの教会へと入っていくのを目撃する。

翌朝、テレビではまた昨日のメッセージが流れていた。教会が気になった主人公は、教会に近づくと、讃美歌が聞こえることに気が付く。忍び込んだ主人公が見たのは、並べられた薬品と、大量の段ボールとサングラスのレンズ、そして讃美歌を流す録音テープだった。偶然、隠し扉と隠された段ボールを見つけた主人公だったが、帰ろうとしたときに説教師に見つかる。いまは革命中だと言う盲目の説教師をあしらって外にでた主人公は、空を飛ぶヘリコプターを見つける。すると教会の中から出てきた二人の男が、サングラスをかけてヘリコプターを見上げる。

キャンプでは、街では異常な事件が増えている、新興宗教が流行りだしているといった噂話が広まっている。

キャンプに戻った主人公は双眼鏡を借りると、教会の様子を覗く。すると男たちが段ボールを車に運び込んでどこかへと持って行くところだった。夜になっても教会を見ていた主人公は、突如教会から飛び出してきた人々を目撃する。あっという間に警察隊が駆け付けて教会を制圧、すると警察隊はブルドーザーを使ってキャンプを強襲する。逃げる主人公は警官たちからリンチを受ける説教師たちを目撃する。

朝になり、なんとか逃げ延びた主人公がキャンプへ戻ると、そこは更地も同然になっており、人々が呆然としている。教会へ向かい隠し扉から段ボールを取り出した主人公は、隠れて段ボールを開く。中にはサングラスしか入っておらず、落胆する主人公だが、段ボールの箱をゴミ箱に隠すと、一つだけを持ち出す。たまたまそのサングラスをかけた主人公は、あまりにも視界が白黒になることに驚く。もう一度かけて周囲を見回すと、広告看板にOBEY(従え)と書かれていることに気が付く。外すと普通の広告となっている看板。別の看板をサングラス越しに見ると、「結婚し、出産せよ」と書かれている。他にも、「考えるな」「消費せよ」などといったメッセージが街中に隠されている。手に取った本にもすべてのページに同じようなことが書かれている。たまたまそこに新聞を買いに来た男が、サングラスを通すと、皮膚のない人間のような化け物に見える。主人公は驚愕しながらサングラスをかけて街を歩く。するといたるところに同じような化け物が人間に混じっている。

スーパーに入った主人公は、テレビで説教をする男も化け物であることを見て、「こんなことだろうと思っていた」と笑いだす。ぶつかってきた老女も化け物だったので、彼女に罵声を浴びせた主人公だが、店中にいた化け物が腕時計を通信機のように使って、男の特徴をどこかに伝える。焦った主人公は店から飛び出すが、警察官に捕まる。化け物だった警察官の隙をつき銃を奪って殺した主人公は、パトカーからショットガンを取り出すと銀行に向かい、化け物たちを片っ端から打ち殺す。しかし、化け物の一体が腕時計を操作すると姿を消してしまう。外にでた主人公をドローンが追跡、主人公は撃ち落として逃げる。

駐車場にいた女性を人質にとった主人公は、彼女に車を運転させて彼女の家へと向かう。

こうして、男と世界を支配する化け物たちの戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

金=これは神だ

前述したとおり、本作のストーリーは大味だし設定もきちんと練られているとは言えない。しかしながら、カーペンターが主題とした消費社会や行き過ぎた資本主義への批判は、巧みな演出によって成功していると言えるだろう。

本作を象徴するサングラス。それをかければ宇宙人が発している電波を遮断することができ、サブリミナル的に隠された真実があらわになる。これがただのサングラスでないことは、作中のNada(主人公)の反応を見てもわかる。これをかけたときの視界は、サングラスというより、白黒映画の画面のようだ。現実でも社会には、広告が演出や表現の綺麗な色をつけて氾濫している。しかしそれらの本質は「買え」といいう命令でしかない。サングラスはまさしく、資本主義を暴走させる人々がつけた色を剥がして、世界の実際を見せる装置だ。

あと白黒に見えることによって、宇宙人の顔のグロさを軽減できたのも大きい。カラーに色付けされた宇宙人の画像があるが、かなり生理的嫌悪を催す。

格差社会も本作のテーマの一つだろう。人に擬態している宇宙人は、見た目からして裕福な人物や影響力のある人物が多い。いっぽうで彼らと戦う主人公たちは、肉体労働者だ。裕福なホリーも結局は裏切るしね。主人公の名前が作中で出てこない点も、当時不況に見舞われていたアメリカの人々に、主人公と彼ら自身を重ねさせるギミックかもしれない。80年代末期のアメリカは、レーガノミクスによる失敗、イラン・イラク戦争による原油供給不安、ブラックマンデーと呼ばれる株価の大暴落によって不況に陥っていた。日本ではプラザ合意の影響で金利が下がり、すでに芽が出ていたバブル景気が命の短い花を咲かせるのだが。レーガノミクスは富裕層を優遇する政策であり、富裕層に振り回される労働者の代弁も本作は担っている。ただ、本作はあくまで行き過ぎた資本主義の批判がテーマであり、けっしてプロレタリア的な作品でも階級闘争を描いた作品でもない。この時代には、共産主義の失敗は世界の共通認識だったろうし。

 

経済? 陰謀? そんなことより筋肉だ!

本作を象徴するもう一つの要素。それは筋肉である。主人公を演じたロディ・パイパーは当時演技経験のないプロレスラーだった。プロレス好きのカーペンターは彼を起用した。

工事現場で作業のために服を脱ぐシーンで、彼の筋肉美に驚かされる。肉体労働は多少なりとも筋肉がつくものだが、明らかにそれ以上のムキムキっぷりだ。このあたりはアメリカらしいマッチョ信仰が見て取れる。しかし、この筋肉によって、主人公が警官隊を相手に無双に近い活躍をすることにも、絵面的には説得力が持てる。そう、本作のアクションは見ていて面白い。A級の出来ではないが、低予算なことを考えれば質は高いように感じた。終盤、主人公とフランクがたった二人で宇宙人の基地を荒らしまわるシーンなんかは、正直なところチープに見えるが、ブラックコメディらしい本作にはそれこそがふさわしい。

本作の最大の見どころは、中盤に五分以上の尺を割いて描かれる主人公とフランクの格闘シーンである。いや、格闘というよりは喧嘩だろうか。ともかく、泥臭い殴り合いの応酬が続く。倒れたと思っては起き上がり殴る。倒したと思っては立ち上がった相手に殴られるを延々と繰り返す。この泥臭さはちょっと他の映画には見られない。フランクの後頭部の擦り剝けて露出したピンク色の肉などは、あまりにも痛々しくて『遊星からの物体X』なんかよりも堪えるものがある。カーペンターはただプロレスを撮りたかったのでは、とすら思ってしまう。しかも喧嘩の理由が、「サングラスをかけろ」「嫌だ」、これの一点だけなのだ。たしかに表向きは大量殺人を起こして奇妙なことを口走る主人公にサングラスをかけろと言われたら嫌だと答えるだろう。けれどもそんなにボロボロになるなら、ちょっとかけてみりゃいーじゃねーかとも思える。殴り合いの末に納得したフランクが自発的にサングラスをかける、なんて結末ではない。倒れたフランクに無理やり主人公はサングラスをかけさせる。喧嘩の末にまっているのは、少年漫画的な美しい展開ではないのだ。

本作のアクションはチープだが面白い。そして、チープだからこそ作風にあっていると言える。

 

 

まとめ

外れ作品も多いカーペンターの作品の中では、癖はやはり強いとはいえ素直に面白いと言える作品。B級らしいアクションと見事な社会風刺、そして宇宙人の見た目のインパクトが見事な化学反応を起こして、公開から三十年以上たったいまでも多くの人に愛される映画となった。さあ、さっそくサングラスを買って来よう。

 

 

余談

本作は低予算ながらヒットした映画だ。以前紹介した『ザ・ウォード』や『ゴースト・オブ・マーズ』のように、カーペンターは大コケした作品も多い。やっぱり癖がすごいのだろう。