自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 プロムナイト

『プロムナイト』

  (原題:PROM NIGHT)

1980年 90分 カナダ

評価 4点/10点満点中

 

 

アメリカやカナダの学校には、学年の最後に開かれるプロムナードというパーティーがある。生徒たちは正装をして、男子生徒は女子生徒をひとり誘ってダンスを踊る。さらには生徒の投票によってキングとクイーンが選ばれる。ほとんどの場合、キングとクイーンは、スクールカーストのトップに位置するジョックやクイーンビーと呼ばれる生徒たちが選ばれる。当然、陰の者たちにとっては辛いイベントになる。つくづく日本にはなくてよかったなと思う。

華やかなプロムだが、ジョックたちが悲惨な目に遭うホラー映画においては惨劇に舞台になる。スティーブン・キングの『キャリー』では、主人公のキャリーがいじめでクイーンに選ばれて豚の血を浴びせられために、プッツンして生徒たちを虐殺する。

本作は、幼い頃に遊びで友達を殺してしまった高校生たちが、プロムの日に次々と殺されるスプラッターホラー。主演を務めるのは、『ハロウィン』でブギーマンの妹であるローリーを演じるジェイミー・リー・カーティス。最近の『ハロウィン』ではサラ・コナーのようになっていた。

恐怖を煽られる場面が少なかったこと(というか肝心の殺人鬼の登場が遅い)、犯人の正体が悪い意味で裏切りなどの映画の骨子が微妙なのがマイナス。ただ、昔のプロムの雰囲気は感じることができる。

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

ある廃校で、四人の子どもたちが鬼ごっこをしている。ウェンディ、ニック、ジュードにケリー。近くを通りかかったキム、ロビン、アレックスの三姉弟は、窓のへりを歩くニックを見つける。キムとアレックスはその場を離れるが、ロビンは廃校に入り混ざろうとする。するとウェンディたちは、混ざってきたロビンを四人で追いかける。殺人鬼が来たぞ、と繰り返す四人に窓際まで追いつめられたロビンは窓から転落してしまう。彼女が死んだことを悟った四人は、ウェンディの主導のもと自分たちの行いを隠すことを誓う。見つかったロビンの死体は、変質者による犯行として処理される。

ロビンの死から六年後、キムとアレックスは父が校長を務めるハミルトン高校に通っている。学校はプロムで盛り上がっており、ダンス部とテニス部でリーダーを務めるキムは、プロムのクイーンに選ばれる。

ロビンを死なせてしまった四人も同じ高校に通っており、プロムの日、四人のもとには脅迫の電話がかかってくる。ニックだけは、電話を無視してしまう。

六年前にロビンの件を担当した警部のもとへ、ロビン殺しで捕まっていた男が精神病院から逃げ出したうえ、看護師を連れ去り殺したと連絡が入る。彼は当時の担当医を呼び出し協力を仰ぐ。担当医はパニックを避けるために公表しないべきだと言う。警部はそれに従い、パトロールを強化する。

プロムの日の朝、ジュードは登校中にセイモアという男にナンパされ、彼の面白さに惹かれる。ケリーは付き合っているドルーに対して、プロムの日に自分の初めてを捧げるべきかを悩む。ウェンディと交際していたニックだが、キムに好意を抱いていた彼は、ウェンディを振りキムに思いを伝える。ウェンディはキムに対して怒りを燃やす。

昼食時、問題児のルウにかしつこく迫られていたキムをアレックスが助け、二人は喧嘩に発展する。何度も問題を起こしていたルウは停学処分となる一方、校長は息子の側に立ちアレックスはお咎めなしとなる。怒るルウにウェンディが近づき、二人でプロムをメチャクチャにしてやろうと持ち掛ける。

プロムのキングに選ばれたニックは、両想いになったいまでも、キムにロビンの死について打ち明けようとするができずに良心の呵責に悩む。

プロムが近づくなか、校内では奇妙な出来事が起きる。ウェンディのロッカーに切り取られた彼女の写真が貼ってあったり、更衣室の鏡が割れて破片が持ち去られていたりする。不安を感じるキムだが、クイーンとしてプロムを成功させることに集中する。

そしてプロムが始まり、さまざまな感情が渦巻く中、覆面の殺人鬼が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

陰の者にはつらいよ

アメリカ特有の学校行事であるプロムナード。前述したように、このプロムで目立つことができるのは学校の人気者やその周辺にいる生徒たちだ。ある意味では、日本の成人式が近いものだろうか。現在では、このプロムに対するアンチ・プロムなるイベントもあるらしい。こういうイベントを開くのは、陰キャラとはいえアメリカ人だなと実感する。

閑話休題

本作では、古いとはいえプロムの雰囲気が良く出ている。ただのダンスパーティーかと思いきや、キングとクイーンはリハーサルを行っていたりと、まるで文化祭のようだ。あまり知ることのないプロムの裏側などが垣間見える。

一方で、重要なホラー要素に関しては物足りなさを感じる。そもそも殺人鬼が出てくるのに六十分かかる。それまではバレエ教室のいじめのようなネチネチした嫌がらせくらいしか行動がなく、どちらかといえば登場人物たちの人間関係の描写に多くが割かれている。kill数も五であり、大暴れしたとは言い難い。そのうえ戦闘力が低く簡単に逃げられるので緊張感もたいしてない。

スプラッター描写も少ないし、それほどきつくもない。ルウの撥ねられた首がプロムの舞台に転がる場面が目玉なのだろうが、生首の出来も特別高くないうえ、描写がギャグよりだ。

総じてホラーとしての得点は高くない。派手なシーンもゾッとするようなシーン、はたまた緊迫のシーンもほとんどない。

 

じっちゃんの名にかけて

最後まで伏せられた殺人鬼の正体は、キムの弟でありロビンの双子の兄弟であるアレックスであった。このことに関して大きな不満がある。

殺人鬼の正体を考えるのも、こういった映画の醍醐味だろう。本作でも容疑者は何名かいた。まずはアレックス。ロビンの弟であり、ウェンディを狙う動機はばっちりだ。そのうえ、普段は大人しい彼だが、姉のキムがルウにからまれていたときには躊躇なく彼を殴り飛ばした。秘めたる暴力性が見える。

つぎにキムの父親である校長。動機はアレックスと同じくであり、彼はプロムのあいだ姿を消していた。なるほど、ものすごく怪しい。

お次はキムの母親。娘の死で一番気を病んでおり、命日が近づくと精神的に不安定になるらしい。そんな彼女がキムの死の真相を知れば、ウェンディたちを手にかけることは想像に難くない。

最後はロビン殺しで捕まった男。精神を病んでいた男は病院から脱出して、人質にとった看護師を殺害している。彼がどうやって事件の真相を知るかは謎だが、もし知ることができれば復讐にやってくるだろう。

以上の四人が容疑者なのだが、この謎解きからは制作陣の視聴者に対する不誠実さを感じられる。推理要素がまったくないからだ。

まず校長。彼は犯人ではなかったが、プロムのあいだ姿を見せなかった理由は説明されない。ブラフになんの理由も説明もなければ、騙すというより誤認だろう。脱走犯も終盤になり唐突に捕まったという情報がはいる。彼が逃げ出したのはまったく本編とは関係ない理由で、まったく本編とは関係のないところで捕まる。校長と脱走犯は、ただ視聴者を混乱させるためだけに行動させられている。とくに、脱走犯と刑事のくだりはまったく必要がない。

覆面の下がアレックスだったことにも納得がいかない。彼はプロムのあいだテープ係というDJ役なのだ。つまりずっと会場にいて然るべきなのだが、なんの説明も描写もなしに彼は仕事を放棄して、校内をうろつきまわり人を殺している。たしかに、意図的にDJブースにいる彼が映らない画角だったが、それにしても不誠実すぎる。そのうえ、実は幼い彼がロビンが死んだ瞬間を見ていたことも、最後にねじ込まれるように本人の口から語られる。これに関してもヒントのようなものは存在しない。強いて言うなら、彼がロビンの墓に向かって思いつめたような顔をしていたことくらいだろうか。

犯人捜しにはヒントがなく、そもそも推理ができないのだから、正体がアレックスであることに驚きがない。作りが甘いいうよりは、不誠実だと思う。

 

 

まとめ

日本人にはなかなか馴染みのないプロムを舞台にしたホラー映画。個人的にはあまり評価できない。ずっと後の作品だが、『スクリーム』を見習ってほしい。ちなみにリメイクもあるらしいよ。