自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ブラッディ・バレンタイン

ブラッディ・バレンタイン [完全版]』(原題:My Bloody Valentine)

2009年 95分 アメリ

評価 8点/10点満点中

 

 

女性が意中の男性にチョコレートを贈る日、それがバレンタインデー。小さい子どもにとっては楽しいイベントだが、中学生あたりから、男にとっては辛い現実を噛みしめる日になるだろう。バレンタインなんて、ただのお菓子屋のキャンペーンですぜ。

欧米におけるバレンタインは、恋人同士が贈り物をしあう日なのだとか。うん、ますます関りが遠くなりそうだ。そんなバレンタインの日に惨劇が起きる、まさしくタイトル通りの本作。作業服を着てガスマスクをつけ、ツルハシで人を突き刺す殺人鬼ハリー・ウォーデンが印象深い本作。1981年に公開された同名映画のリメイクである。1981年版は未見。

単純なホラーでなくサスペンス要素もあり、ゴア描写やストーリーも丁寧な出来。傑作ではないが良作ではあるので、グロテスクな描写が苦手でなければおススメだ。ただしR-18なので子どもは見ちゃダメ。

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

ハニガー炭鉱に支えられる街ハーモニー。バレンタインデーの日に、炭鉱の五番トンネルで生き埋め事故が発生する。生き埋めにされた六人の従業員のうち、生き残ったのはハリー・ウォーデンという男ひとり。さらに彼は酸素を確保するためにほかの従業員を殺していたという事実が判明する。ウォーデンは意識不明のまま病院へと運ばれる。間を置かずして炭鉱の持ち主の息子トム・ハニガーが、メタンガスを抜き忘れたまま避難訓練を始めたことが事故の原因ではと噂される。

一年後のバレンタインデー。病院で突如目覚めたウォーデンが、病院で虐殺を行う。警察が駆け付けたときには無数の死体が広がる惨状だった。さらにウォーデンは看護師の心臓をくりぬき、それをハート形の菓子箱に詰めると、血で描いたハートのマークを残して消えていた。

同じころ、閉鎖された第五トンネルでは、若者たちがパーティーを開いていた。トムも恋人のサラ、友人のアクセルと彼の恋人のアイリーンとともに参加する。するとそこに、ガスマスクと作業服を身に着け、ツルハシを持ったウォーデンが現れる。ウォーデンは若者たちを次々と殺戮する。サラとアクセル、アイリーンはトムを置いて車で脱出。一人取り残されたトムはウォーデンに追いつめられるが、駆け付けた保安官のバークと、保安官代理がウォーデンを銃撃。ウォーデンは大量に出血しながらもトンネルから逃げ出す。ウォーデンの血を浴びたトムは呆然とする。

十年後、炭鉱の事件の記憶はまだ消えずにいる。アクセルは父バークのあとを継いで保安官となり、サラと結婚し子どもも儲けている。しかし彼は、サラが家業で経営しているスーパーの店員ミーガンと浮気している。アクセルはその日、父がかつて住んでいた山の中の家でミーガンと情事に及んでいる。コトが済み帰ろうとするアクセルにイレーヌはチョコレートを渡す。アクセルがなにも返せないと言うと、彼女はもうもらったと言いお腹をさすり、妊娠していることを明かす。

十年前の事件以来、トムが街に帰ってくる。彼は父親の友人であるベンを訪ねて、父の死で自分のものになった炭鉱の株式をすべて売ることを伝える。ベンはそれに反対し、さらに父親の葬儀にすら来なかったこと、十年間音信不通だったことをトムに問い詰めるが、彼の決意は変わらず、月曜日には売却することを決める。

トムがモーテルに泊まると、隣室ではアイリーンがトラック運転手の男とコトに及んでいる。トムは喘ぎ声を不快に思いながら薬を飲む。男は帰ろうとしたときに、隠していたビデオカメラを取り出し、趣味のために撮影していたことを明らかにし、アイリーンを捨てると言う。激高したアイリーンは銃を持って裸のまま外に男を追いかけ、銃を突き付けてカメラを渡すように要求するが、男は銃に玉が入っていないことを見抜きせせら笑うと、トラックに乗り込もうとドアを開く。すると突然ツルハシが男の頭を貫く。トラックから出てきたのは、ガスマスクと作業服を身に着けた男だった。ウォーデンが生きていたと恐怖したアイリーンは、急いでモーテル内に逃げるが、ガスマスクの男はモーテルの主人、そしてアイリーンも殺害する。

現場を検分したアクセルは、心臓を抉り出されたアイリーンの死体を発見する。警察署に戻ると、保安官代理のマーティンが、ウォーデンが戻ってきたのではと言うが、アクセルはそれを否定する。しかしそこに、アクセル宛てのハート形の菓子箱が届く。その中に入っていたのはアイリーンの心臓だった。

トムはサラに会いに行く。サラは炭鉱は街の命綱だからと、彼に売却を止めるように説得する。彼女に諭されたトムは、一度炭鉱へと赴く。トムはレッドという無口な男に炭鉱を案内される。案内された場所では、トムは生き埋め事件の原因である自身が操作を誤ったガス管を見つける。過去のことを思い出していると、不意にガスマスクの男が現れ、男はトムをガス管の操作室に閉じ込める。そしてトムが見ている前で、レッドを殺害する。

街ではウォーデンが戻ってきたという話題で人々が恐怖に震える。そしてまたバレンタインデーに血の惨劇が幕を開ける。

果たしてウォーデンは本当に戻ってきたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

ハート入りのチョコレート

あんまりバレンタイン関係ないよね、は禁句である。惨劇がバレンタインに起きること、菓子箱に心臓を詰めるというのはバレンタイン要素ではあるが、実際のところ時期がクリスマスであってもほとんど変更なく同じ筋書きが書けるだろう。しかし、クリスマスが舞台のスラッシャー映画はたくさんあるだろう。バレンタインデーを選んだことが、この映画が81年に作られてから長年愛されて、リメイクまで作られることになった要因だろう。もちろん、元の映画の出来もいいのだろうが。

スラッシャー要素も出来がいい。劇場公開は3Dだったので、それを意識してために2Dで見るには違和感のある演出もあるが、ツルハシひとつでも殺し方や見せ方に様々なパターンがあり飽きない。ゴア描写に関しても、気持ち悪くならないグロさというか、映画的で表現過多な面もあるがしっかり作られている。R-18 の面目躍如といったところか。

ストーリーもまったく退屈させない。開始十分も経たずに始まる虐殺劇で視聴者をグッと引き込み、ウォーデンの復活やトムの帰還などの謎がちりばめられたミステリーパートにも定期的にスラッシャー要素を挟んでいる。ウォーデンの正体という作中最大の謎は、ラストのラストまでわからない。視聴者を飽きさせないつくりの丁寧さが見える。

 

マスクの下は

本作最大の見どころであるガスマスクの男の正体。生き延びていたウォーデンなのか、突然帰ってきたトムなのか、それとも保安官でありながら浮気という秘密を抱えるアクセルなのか。

やはり疑いたくなるのはトムだ。十年前にウォーデンに襲われたとき、彼はサラやアクセルに取り残されたことに怒りを覚えているだろう。自分を見捨てた者たちへの復讐という動機がある。

保安官でありながら浮気をしているアクセルにも動機がある。浮気相手の妊娠という破滅的な状況に追いつめられた彼が、狂気に駆られた、または自分に不都合なことを隠蔽したかったという可能性もある。アクセルはほかのスラッシャー映画なら中盤に殺されそうなポジションだが、浮気をしているという点やときおり見せる表情が、彼の怪しさを際立たせる。

結局、ウォーデンの正体はトムだったわけだが、どうやら彼の動機は復讐ではないようだ。彼自身がウォーデンの幻影に憑りつかれて、狂気的な行動に走ったということだろう。七年間も精神療養をしていたらしいが、彼はそもそもなぜ狂気に走ったのか。ウォーデンに殺されかけたこと、生き埋め事故の原因を作ってしまったこと、友人や恋人に見捨てられたことなどが重なり人格が変わってしまった、二重人格となったという可能性もあるが、それならトムがウォーデンの死体を見つけられた理由がわからない。それらは元保安官のバークや自警団長だったベンしかしらないことだ。ホラー的に考えるなら、ウォーデンの霊がトムに乗り移ったとも考えられるが、そのような描写は匂わせもなかったのでないだろう。いずれにせよ、スラッシャー映画にそこまで細かい整合性を求める人はいないと思う。

 

まとめ

非常に完成度の高いスラッシャー映画だ。もちろん粗はあるものの、粗製乱造されて見るに堪えないクオリティが多いこのジャンルで、この出来は良作とみなしてもかまわないと思う。個人的には『スクリーム』や『13日の金曜日』シリーズの一部と並ぶスラッシャー映画だ。評価の8点はこのジャンルとしてはほぼ満点に近い。