自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 パーフェクション

『パーフェクション』

  (原題:The Perfection)

2018年 90分 アメリ

評価 6.5点/10点満点中

 

今回はNetflixオリジナル映画。前置きで話すことに困るタイプの映画。なにを話してもネタバレになりそうな気がする。

主演は『ゲット・アウト』で怖い彼女を演じたアリソン・ウィリアムズ。『ゲット・アウト』の監督の新作が日本では九月に公開だ。今回もオカルトチックなホラーのようでけっこう楽しみにしてる。関係の話で文字数を稼いでもしかなたいので、さっさと映画の概要に行こう。

類まれな才能がありながら、母の介護のために演奏家の道を断たれた主人公シャーロット。母の死をきっかけに恩師と再会し、紹介された天才チェロ奏者のエリザベスと出会ったことで、物語は始まる。

四つの章で構成されている本作。章を移るごとに展開が大きく変わる。途中まではかなり面白く見れたのだが、終盤が個人的には評価し難い。

グロテスクな描写と性的な描写、あと虫がでてくるので苦手な人は注意。

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

1.使命

傑出した才能がありながら、母の介護のためにチェロ奏者の道を諦めたシャーロット。母が死んだことにより、彼女はかつての師であるアントンに連絡を取る。

上海でアントンとその妻パロマと再会したシャーロットは、彼らに天才チェロ奏者として世界を席巻しているエリザベスを紹介される。シャーロットと同じくアントンのアカデミーで学んだエリザベス。シャーロットは彼女の演奏を褒めたたえ、エリザベスもシャーロットが憧れだったと語り、二人の話は弾む。

アントンは上海で新しい才能を発掘するべく、コンクールを開催している。最終選考の審査員として、エリザベスとシャーロットが選ばれる。三人の少女による演奏中、エリザベスはシャーロットの耳元で、少女たちの保護者による乱れた関係について囁く。ひとりの母親が、夫ではない男性の股間に手を伸ばすのを見て、エリザベスは「濡れる」と言う。

コンクールが終わり、エリザベスと談笑するシャーロット。彼女はエリザベスの肩に音符のタトゥーがあることに気がつく。シャーロットが母の介護のために退学する日に入学したエリザベス。二人はアカデミーの話をする。完璧を求められる厳しいアカデミーからの退学を考えたことはないのかと尋ねるシャーロットに対して、エリザベスは「ない」ときっぱり答える。完璧な演奏をすることは、自分の任務だとエリザベスは言う。また、エリザベスは初めての休暇をとって、中国で羽を伸ばす計画を話す。

二人が会場を歩いていると、近くにいた男性がふらついて吐く。運ばれる男性を見ながら、女性たちがなにごとかを話す。エリザベスが尋ねると、南部の湖南で出血熱が流行っているのだと言う。

突然、アントンがエリザベスに演奏を依頼する。彼女はシャーロットが第二チェロをするのなら、と返す。シャーロットは十年のブランクがあることに戸惑いながらも、ついには折れて演奏することを決める。最高の弟子の二人による共演を、アントンは喜ぶ。

演奏を通じてシャーロットとエリザベスは急速に仲を深めて、ついには一夜にして肉体関係にまで発展する。夜の上海を楽しみ、ホテルでセックスをしたあとに、自分の休暇に付き合ってくれないかとエリザベスはシャーロットに頼む。彼女は快諾し、二人は翌日から西部の田舎へと行くことを決める。ベッドで横になるシャーロットの肩には、エリザベスと同じタトゥーがある。

2.回り道

二日酔いで目を覚ましたエリザベスに、シャーロットは薬を与える。ホテルを出てバス乗り場に向かう二人だが、エリザベスは頭痛や吐き気を訴え、途中で寄った店でもご飯を食べることができない。

バスに乗ってもエリザベスの不調は続き、彼女はペットボトルの水を一気に飲み干し、さらには容量以上の鎮痛剤を飲んでしまう。バスが山道に入ると、エリザベスは便意を訴える。シャーロットはバスを路肩に停めるよう運転手に頼むが、英語のわからない運転手には通じない。英語を話せる現地の人の説得もあって、運転手はしぶしぶバスを停めるが、エリザベスは車内で漏らしてしまう。外の出た二人は、エリザベスの粗相の始末をする。バスに戻った二人は運転手に悪態をつかれる。

エリザベスの容体はいっこうによくならず、彼女は自分が出血熱に罹ったのではとパニック状態に陥る。彼女を病院へと連れていきたいシャーロットだが、病院はずっと先の町にしかなく、携帯も圏外で通じない。

吐き気を訴えたエリザベスは、窓を開けようとするがかなわず、窓ガラスに向かって吐いてしまう。彼女は自身の吐しゃ物のなかに、大量の蛆虫が這っているのを見る。彼女は取り乱し、体の中で虫がうごめいていると言う。車内は恐慌状態で、運転手は二人に下りろと怒鳴る。パニックで頭を窓ガラスに打ち付けるエリザベス。とうとう二人はバスから引きずり降ろされる。

乗客に歩けば医者がいる町があることを聞いた二人は、そこを目指して歩きはじめる。道中で、エリザベスは自分の皮膚が奇妙に波打っているのを見る。パニックが極限に達した彼女の右腕から、虫が皮膚を破って飛び出す。死んでしまうという彼女に、まずは虫を取り出さないと、とシャーロットは言い、どこからか中華包丁を取り出す。虫の恐怖に駆られたエリザベスは、包丁をシャーロットから奪い取ると、自身の右手に振り下ろす。

そして時間が巻き戻り、ホテルでの朝。シャーロットの恐るべき行動が明らかになる。

シャーロットの真の目的、そしてその目的の裏に隠された意図とは? エリザベスとシャーロット。二人の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

説得(物理)

Netflixで流れていた本作のPVでは、エリザベスの腕の皮膚が波打つシーンで、スーパーナチュラルなホラーかなと思ったが、本作は超常現象の登場しないスリラー。

エリザベスが見ていた虫はすべて薬による幻覚だった。昔見た都市伝説で、果物を洗わないで食べたら、付着していた虫の卵が体内でふかして内臓を食い破った、というものがあった。この線かと思ったが、すべてはシャーロットが仕掛けた幻術だったわけだ。わざわざ巻き戻しの演出をするだけあって、シャーロットの仕掛けは巧妙。薬を飲ませるのはもちろんのこと、バスに乗ったときの些細な行動でエリザベスに虫の存在を意識させている。たぶん、母の介護を通して、もしくは自分でも使ったことがあるのか、シャーロットは薬の作用をよく理解していたのだろう。

二章の終わりの時点でシャーロットがエリザベスに薬を飲ませて、彼女の右手を切断するように仕向けたことが判明。そして三章の終わりでは、アントンはシャーロットをはじめとする歴代の優秀者たちに性的虐待を加えていたこと、そしてエリザベスとシャーロットが結託してアントンを殺そうとしていることがわかる。

ただ、それぞれの展開に意外性があるかといえばそうは思わない。それぞれの伏線が目立ちすぎて伏線になっていない。ホテルでの朝、エリザベスの薬を用意するシャーロットにカメラが寄り過ぎていて、このシーンになんらかの意図があるのを感じる。そのあとに薬と一緒に酒を出すのも怪しい。さすがに、薬で幻覚を起こしたことには気が付かなかったが、彼女から怪しさを感じる。

アントンの非道も、序盤のシャーロットのセリフなどから予感できるし、シャーロットとエリザベスの結託に関しては、メタ的になってしまうが、それ以外に物語の畳み方がないように思える。

ただ、驚きがまったくないかといえばそうではない。エリザベスから飛び出した虫が幻覚だとはわからなかったし、出血熱などのブラフも用意している。窓ガラスに吐いた吐しゃ物の中には、シャーロットが虫がいるというまで蛆虫がいないなど、細かな布石が多く、丁寧に作られているのがわかる。やや丁寧過ぎたのかもしれない。

しかし、アントンから引き離すためとはいえ、エリザベスはよくシャーロットにつく気になったな。彼女のせいで右手を失ったうえに、げろを吐かされるは漏らすはと、映画史上でもトップクラスに散々な目にあっているのではないだろうか。

 

やっぱり火かき棒は最強だぜ!

アントンのスクールはまさしく戸〇ヨットスクールのような地獄だということが後半に判明する。優秀生たちにしていた仕打ちに関して、私は変態ではなく楽しんでいるだけだと言っているが、それって十分変態じゃね? 祖父の代からこんなことをやり続けていたのだから、やはり教育や環境は大切なのだなあ。

グロテスクで外道が多い映画だが、バスの他の乗客たちの優しさは身に染みる。よく見れば、なんとか歩こうとするエリザベスに対して手を差し伸べていたりと、アントンたちとの対比として描かれているのかもしれない。

本作はスプラッター映画にも劣らないゴア描写がある。前半のエリザベスをシャーロットが追いつめるように仕向けるところでは、それらのゴア描写や虫の描写が物語とうまく合致していて、視聴者を引き付ける力がある。

いっぽうで、ラストのラスト、両手足を切り落とされ、目と口を縫われたアントンの姿は、いくら悪役に対する仕打ちといえど、悪趣味の領域にはいっている。たしかにアントンは非道だが、ここまで猟奇的な姿だと、シャーロットとエリザベスにも感情移入が難しい。あとよくあの状態でアントンは生きてるなと思う。首には中華包丁が食い込んで、火かき棒で何度も殴打されているうえ、足の切断など簡単に失血死に至る。シャーロットの止血術が恐ろしく優れているのかもしれない。

また、アントンとの戦闘シーンが少しグダグダなのも残念。綿密に計画を練っただろうに、なぜそこは考えてなかったのか? 前述のことを踏まえると、アントンが異常な生命力を持っていたのかもしれない。あと音楽が急にラップミュージックになるのはどうしてだ。

最後に、片腕ずつを無くしたシャーロットとエリザベスが、二人でひとつのチェロを弾くシーンは良かった。二人ではじめて完璧たりえる。二人の同性愛的な関係も踏まえると、古代ギリシャの両性具有のアンドロギュヌスのような要素も感じる。ギリシャの神話では、人間はもともと男女両性だったのを、男と女に引き裂かれたのだという。そのため、元の姿に戻ろうと、男は女を、女は男を求める。二人は同性だが、関係的にはぴったりだし、復讐劇は二人がひとつになって成し遂げたものだ。

この描写が優れているだけに、アントンの姿が水を差す。ふつうに拘束するだけではダメだったのだろうか。また、肝心の二人のチェロが聞けないのも残念。

 

 

まとめ

章をわけることによって、起伏と転換をもつ丁寧なストーリーを得た作品。また、主演の二人の演技もよく、あまり意識したことのないチェロの魅力にも気づけた。だが、ストーリーが丁寧過ぎて期待よりも驚きが少ないことや、過激な描写によってせっかくの素晴らしいラストに水を差されているのが残念。あともう一歩、といったところの映画だろう。