自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 テリファイド

『テリファイド』(原題:ATERRADOS)

2017年 アルゼンチン 87分

評価 3点/10点満点中

 

異色のラブストーリー『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞を受賞したメキシコの映画監督ギレルモ・デルトロ。『パンズ・ラビリンス』で陰鬱なファンタジーを描いたかと思えば、『パシフィック・リム』では巨大ロボットと怪獣が戦うという自身の趣味全開のアクションを見せてくれるなど、独特な世界観を持ちながらも多彩なジャンルを手掛けられる監督だ。

本作はギレルモ・デルトロとはまったく関係のない作品なのだが、感想を書くにあたり調べ物をしていると、デルトロが本作をリメイクするのでは、という情報がはいった。

 

いいの? デルトロ、この映画で。

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

ブエノスアイレスのとある住宅。ジョアンは妻のクララから、排水口から声が聞こえるという言われる。その声は「殺す」と言っていた。その日の朝五時、トイレに起きたクララにつられてジョアンも目を覚ますと、彼は壁を叩くような音に気が付く。てっきり家を改装中の隣人ウェルターの仕業だと思ったジョアンは、隣家に行きインターホンを鳴らし文句を言うが、聞こえてくるのはうめくような声だけ。怒りを抱えたまま家に帰ったジョアンは、音が自分の家から聞こえていることに気が付く。浴室のドアを開けたジョアンが見たのは、体が宙に浮き、何度も壁に叩きつけられる血まみれのクララだった。

後日、三人の男女から質問を受けるジョアン。そこで彼が見せられた写真には、妻のクララのものに混じって、首を獣の爪で裂かれたような傷を負った女性の写真があった。三人のうち一人は元検死官のジャノ、もう二人は超常現象の専門家であるアルブレックとロゼントック。彼らはジョアンに話を聞かせる。それはジョアンが住む通りで起きた超常現象たち。ウェルターで起きるポルターガイストと謎の男。墓から戻ってきた少年の死体。三人はジョアンに家屋の捜索許可を求め、ジョアンは承諾する。

三人は、警察本部長で持病による退職を控えたフネスを加えて、超常現象が頻発する住宅の調査を始めるが、そこで彼らを待ち受けていたのは想像を絶する恐怖だった。

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

導入まではよかった!

導入というのは上記のあらすじの一段落目まで。時間で言うと八分くらいだろうか。謎の声(視聴者には聞こえない)、隣人の終わらない改築工事、そして壁に叩きつけられる血塗れの妻。最後のは絵的にもインパクトがあるし、視聴者に恐怖と同時に謎を与える。これはポルターガイストの話だろうか? それともエクソシスト的な悪魔の話なのだろうか? ここまでは視聴者の好奇心をうまくそそるのだ。

しかしそれ以降はグダグダで支離滅裂。言ってしまえば、恐怖の正体はよくわからない。登場人物(アルブレック)の推察はあるのだけれど、その推察と正体の行動が矛盾している。「理不尽」はホラー映画において重要な要素だ。登場人物は理不尽な存在によって理不尽な目にあう。理不尽ゆえの突拍子のなさが恐怖を演出するのだ。たとえばチェンソーをもった大男に追いかけられたり、人食いの先住民族に掴まったり、テレビから髪の長い女がでてきたり。

本作にあるのは「理不尽」ではなく「支離滅裂」だ。とりあえずこうすれば怖がるんだろ? といった演出をつぎはぎにしてできたできの悪いパッチワーク。怖い演出サンプル集でしかない。結果として視聴者が抱くのは、恐怖よりも作品の質への違和感なのだ。

アルブレック曰く恐怖の正体は、「共存する次元の空間に存在する人間に敵対的な生命体(意訳)」なのだが、まず「共存する次元の空間」の意味が分からない。これは翻訳の問題なのか(英語字幕で確認すると、次元はオレンジの房のように異なる次元と隣接していて、謎の存在は隣の次元からやってくる、という感じになっている。間違っていたらすみません)。

ともかく別次元の生命体は人間を攻撃するらしい。そして血を好むと言われているのだが、1シーンを除いて血を吸ったりしている様子はない。また、別次元の存在だから消えたり現れたりするというのはわかるが、なぜ人の部屋をポルターガイストよろしく荒らしたり、「殺す」と人間の言葉を発しちゃったり、子供の死体を動かしたりするのかがまったくわからない。この生命体は人間を攻撃するのか、恐怖をあたえたいのか、一貫性がないのだ。ポルターガイストを撮影したい。死体が動いたら怖くない? 排水口から声が聞こえるってビビるよね。そうした演出とキャラクターがまったく合っていない。こうした演出をしたいなら、単純に悪魔とか悪霊でよかったんじゃないだろうか。それを奇をてらって「別次元のうんたらかんたら」にしてしまったことで、違和感がすさまじく興ざめしてしまう。

また演出自体も出来がいいわけでなく、別次元の存在は裸の変態にしか見えないし、折れた首のまま走ってくるアルブレックも、一瞬なうえ画面が暗くてわかりづらい。子供の死体は突然立ち上がったり、気が付けば目の前にいるといった動きはせず、ちょっと手を動かしてコップを倒したり、首を曲げたりと、ソフビ人形以下の可動域しかない。ほかの演出も見たことがあるものばかりで新鮮味がないし、使いどころも微妙なのでまったく生かせていない。本当にこの作品は「恐怖演出サンプル集」でしかない。登場人物が襲われるときも、なにかが迫る⇨場面が変わりほかの人物を映す、が繰り返されて重要な部分が見られることが少ない。また、調査のときにアルブレックたちが謎の装置を用いているのだが、これが最後まで謎のまま。せめて生命体の反応を拾うとかしろよ。

時系列がややこしいのも難点だ。流れでは、①クララの死(作中では行方不明とされている)⇨②ジャノたちによるジョアンの取り調べ⇨③ウェルターの事件⇨④帰ってきた子供の死体⇨⑤再びジャノたちの取り調べ⇨⑥ジャノたちによる調査⇨⑦調査の失敗を聞かされ、また別の人々から取り調べを受けるジョアン。の順番だが、時系列としては③⇨④⇨①⇨②⇨⑤⇨⑥⇨⑦の順番で、②から③に映るときになんの説明もないのがややこしい。せめて数週間前とか字幕でいれてくれ。

あまりにも悪い点を並べたのでいい点を書こう。おそらく主人公枠であるフネス本部長のキャラはホラー映画としては珍しい。ホラー映画の警察官はだいたい超常現象を否定して現場に乗り込み無残に殺されるという役どころだが、フネスは超常現象に否定的ながらも、終始ビビり倒し、帰るぞ帰るぞ、と何度もわめいていた。さらには病気による退職が控えているからキャリアを傷つけたくないなど、いい意味で等身大の人間臭く、感情移入しやすいのではないだろうか。後半はわけのわからないことを言いまくる超常現象研究家たちに振り回されるフネスに同情してしまった。

 

まとめ

「理不尽」と「支離滅裂」は違う、ということを教えてくれる映画だろう。ただ単にびっくりしたいだけで、ストーリーを気にしないなら見てもいいのではないだろうか。まあ、お化け屋敷とかに行ったほうがいいよね

 

余談

ギレルモ・デルトロ監督が出演する「メタルギアシリーズ」の小島監督が製作中のゲーム『デス・ストランディング』を楽しみにしてます。PV見るだけでわくわくする。