自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ダークシティ

 『ダークシティ』(原題:Dark City)

 1998年 アメリカ 100分

 評価 7点/10点満点中

 

本作は小さい頃の自分にトラウマを与えた『アイ、ロボット』の監督作品。『アイ、ロボット』に登場するサニーの造形は、まさしく不気味の谷といったところで、あれがわらわら群がるシーンに恐怖を覚えた人も多いのではないだろうか?

ダークシティ』はWikiによるとSFスリラー映画らしい。SFとしては面白かったがスリラー要素はそこまで感じられなかった。ただ映像の雰囲気は抜群によく、演出やストーリー次第では、スリラー要素はたぶんに持てたと思う。

 

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

午前零時少し前、車通りの激しい大通りから離れた路地裏で、ある男が独白している。シュレーバー博士と名乗る男が語るには、「チューン」と呼ばれる物質を変える力をもつ「異邦人」たちが、絶滅の危機を乗り越えるために銀河をさまよい地球を見つけたのだという。そしてシュレーバー博士は「異邦人」の実験に協力している人類の裏切り者らしい。

そして時計が零時を指す。すると歩いている人も車を運転している人も、食事を食べている人も、みんなが意識を失ったように眠りに落ちる。あれほどにぎわっていた街が、死んだように静まりかえる。

時を同じくして、ある男がホテルのバスタブで目を覚ます。男はなにも思い出せない。鏡を見るが自分の顔にすら見覚えがない。服を着て自分がいる部屋を探索すると、K.Hのイニシャルがついた旅行鞄、その中には「シェル・ビーチ」という海のポストカード。ポストカードを見たとき、男は青い海と桟橋のビジョンを見る。

電話が鳴り、男が取る。電話の主はシュレーバー博士で、「実験に失敗した。追ってくるやつがいるからすぐに逃げろ」と男に言う。直後、男は女の死体を見つける。女の体には渦巻状の傷。そして血の付いたナイフがテーブルから落ちる。慌てて部屋を飛び出ると、エレベーターから現れたのは青白い肌をした黒ずくめの集団。男がロビーに出たとき、止まっていた時計が動き人々は目を覚ます。宿屋の従業員が男にマードックさんと呼びかける。自分の名前がマードックだと知った男は、従業員が宿泊費を要求すると、すぐに払うと答えて外にでる。

マードックがいた部屋を探る黒ずくめの男たち。年齢も体格もばらばらだが、一様に肌が青白く体毛がいっさいない。部屋に入ってきた従業員を謎の力で眠らせると、彼らは部屋の中で奇妙な注射器を見つける。

マードックの妻のもとに、マードックの主治医と名乗りシュレーバー博士が現れる。時間が少し経ち、マードックが目覚めた部屋で警察は捜査を始める。警部のフランクは台帳からマードックを突き止め、連続娼婦殺しの容疑者として彼の足取りを追う。

記憶もないままにマードックは街をさまよう。途中で自分の財布を手に入れたが、記憶の手掛かりは「シェルビーチ」のポストカードと海のビジョン。謎の男たちが彼の前に出現し、ナイフを手に彼を追いつめる。だが、突然足場が崩れ、男たちの一人が落下する。

「彼も「チェーン」を使えるぞ」 別の男が言う。

シュレーバー博士が協力する「異邦人」の実験とは? マードックは本当に娼婦を殺したのか? 黒ずくめの男たちは何者なのか? 「シェルビーチ」にはなにがあるのか? 人々が零時に眠るのはなぜ? そしてこの街には昼がない。人々にも昼の記憶がない。

様々な謎が浮上するなか、マードックは記憶を取り戻すために、財布に入っていた自宅の住所へと向かう。

(以下ネタバレあり)

 

 

 

 

 

 

 

話がややこしいので解説

宇宙人が『トゥルーマンショー』をやってみた。

簡単に言ってしまえばそんな感じかもしれない。ちなみに『トゥルーマンショー』は同年公開。

ざっとネタバレを言ってしまいたいが、ちょっと話が複雑なので順を追って説明。

「異邦人」には個性がなく、すべての個体が同じ精神をもっている。この特質のせいで絶滅の危機に(このあたりがよくわからない。多様性のある遺伝子が生き残るのと同じ?) だから個性が手に入れるために、個性のある人間を研究。この研究に協力していたのがシュレーバー博士。実験の内容は、ある人間の記憶を別の人間の記憶を入れ替えて、その人間の人格がどう変化するかを見るかということ。個性は記憶に由来するのか、それとも記憶を超えるのか? 「異邦人」とシュレーバー博士は人々から記憶を抽出しては、別の人間に注入していた。そして、その実験のために、「チューン」を使い人々を眠らせ、街を造り変える。だから、あるときは貧しい労働者でも、眠りから目覚めると裕福な資本家に変貌している。「異邦人」たちは長きにわたりこのような実験を繰り返してきたようだが、どうやら個性が記憶を超えたことはなかったようだ。結局、「異邦人」の記憶は失敗。あ、黒ずくめの男たちは「異邦人」が人の死体に取りついた姿。本体は円形で牙の生えた口がついたスライムみたいなの。

マードックの部屋に死体があったのは、本来は彼に殺人鬼としての記憶を埋めるつもりだったから。しかし彼は「チューン」の力によって?、記憶の注入前に目覚める。結果としてマードックの記憶は空っぽになってしまった。「シェルビーチ」も作られた記憶の断片であり存在しない。

街はダムのような巨大な壁に囲まれて宇宙空間に浮いている(たぶん、結界みたいなものがあり、それにより直接宇宙に浮いていても大丈夫)。宇宙に浮いたラピュタみたいなものだ。

コアとよばれる装置と「チューン」をつかい、「異邦人」たちは苦手な光を避けるために、太陽すら操って街をずっと夜にしていた。「チューン」の力は物質面に限りあらゆるものを変えられる。壁に扉を作ったり、階段を伸ばしたり。あと念力と飛行もできるようになる。

シュレーバー博士の目的は、マードックの「チューン」の力を使い、「異邦人」に打ち勝つこと。そのために、「本来のマードックの記憶」を隠し持っていた。

シュレーバー博士は「異邦人」来襲以前から、彼らがやってくることを予測しており、幼くして「チューン」の力に目覚めていたマードックを鍛えていたらしい。マードックが見ていたビーチはこのときの記憶。

結果として、シュレーバー博士の目論見は成功、「異邦人」は破れて、マードックはコアの力を使い新世界の神となる。そして街には太陽が生まれて海ができ、「シェルビーチ」は現実になる。

解説は以上。間違いや抜けがあったらすみません。

 

 

感想

まず良いところから。

前述したように、画の雰囲気が抜群にいい。1950年代のアメリカにヴィクトリア朝スチームパンクのエッセンスを混ぜたような街。夜の中に潜む「異邦人」や謎だらけのストーリーを際立たせている。

主要人物以外のモブが、まるでミニチュアに雑に並べられたフィギュアのように没個性なのだが、それも「記憶が入れ替えられて自分が曖昧になっている」というストーリーを見事に演出している。

ストーリーの謎は一気に明かされて最後にどんでん返しというわけではなく、視聴者は徐々に推理できるように作られていると思う。どんでん返しの快感はないが、途中で飽きるということもない。

「異邦人」も面白い。人類の記憶を操り支配して、そのうえ超能力まで使うと聞けば恐ろしいものだが、実際には作中の彼らの行動はアナログチックで可愛らしい。マードックを追跡するのに、彼の「記憶」の関係者をしらみつぶしにあたっている。おまけにマードックを捕えなければいけないのに、武器はナイフだけだ。

なんだよ! お前ら太陽すらも操れるんじゃないのかよ! 自分たちが造った街で人ひとり探すのなんてパパっとやっちまえよ! と叫びたくなるまどろっこしさだ。そのうえいつも一歩遅いという抜けっぷりだ。このあたりを、ご都合主義と不満に感じる人もいるかもしれないが、自分は「異邦人」に愛着がわいてしまった。まあ、「チューン」にかまかけてテクノロジーの面がおろそかになっていたんだろう。あれ? コアは?

まとめとしては、やはり一番評価したい点は雰囲気で、個人的にはこれだけでお腹いっぱいになれるくらい好物だ。ストーリーや設定にもミスはちらほら見られるが、面白さを損なうようなものではない。あと「異邦人」可愛い。

 

次に悪い点、というか突っ込みどころとよく分からない点

「異邦人」の目的は個性(個々の心)の獲得で、彼らの記憶も精神も統一されているらしいのだが、マードックを追うために本来彼に注入されるはずだった記憶を自分たちの一人に注入するというシーンで、反対するものがいる。さらにはブック様という強権的なリーダーが存在するなど、お前らもう個性あるんじゃね?と思ってします。リーダーに関しては一番「チューン」が強いものという意味で存在してもいいかもしれないが、少なくとも統一された精神で反対意見をもつ個体がいるのはどうだろうか。

また、「異邦人」はラストでマードックに自分たちの記憶を刷り込み、心を共有すると言っているのだが、それで個性が得られる理屈がわからないし、それって結局みんながマードックになるから個性は得られないんじゃないだろうか? このあたりの構成はやややけっぱち感があるが、作品の肝となる謎はこの場面ではすでに明かされているので、おまけ程度に楽しむのがいいのかもしれない。

シュレーバー博士は最初の被検体として自分の記憶を抜いたと言っていたが、ならなぜマードックの力のことや自分の目的を覚えていたのか? 記憶を抜いたというのは「異邦人」を騙すための嘘というのが濃厚だろうが、そのあたりの説明がないので少し混乱してしまう。シュレーバー博士とマードックの関係もよくわからない。親子というには歳が近いし、甦ったマードックの記憶ではシュレーバーはアイスクリーム屋だったり消防士だったりしている。なんなんだろうね?

あと地球はどうなったのだろうか? マードックはすべてを操れるようになっても地球に帰るという選択肢を一言も出さなかったが、もしかして「異邦人」により滅びたのだろうか? そうだとしたらこんなおっちょこちょいに負ける人類は情けない。

 

まとめ

デイブレイカー』とか、あのあたりの作品の雰囲気が好きな人なら、画だけで面白いと感じられるだろう。ストーリーのテンポもよく、徐々に謎の答えがわかるようになる推理要素も楽しいので、細かい粗が気にならない人や、難解なストーリーは嫌いという人以外も楽しめるのじゃないだろうか。あと「異邦人」可愛い。

 

余談

マードックとブック様(異邦人のリーダー)のラストバトルの互いの念力をぶつけ合うシーン。この作品の念力は額からでるため、ふたりは浅いお辞儀のような前傾姿勢で向かい合うのだが、ブック様の容貌も相まって、「お辞儀をするのだ」のヴォルデモートのAAを思い出して笑いが止まらなかった。『スムース・クリミナル』のマイケルみたいな姿勢でシリアスな戦いを演じる二人は見物である。