自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 7 WISH/セブン・ウィッシュ

『7 WISH/セブン・ウィッシュ』

  (原題:Wish Upon)

2017年 90分 アメリ

評価 7.5点/10点満点中

 

 

もしなんでも願いが叶うなら、あなたはなにを願うだろうか? まあ、普通にお金が欲しいとかそんなところだよね。とりあえず百億欲しい。ちゃんと税金払うから。

残念ながら、現実では願い事が叶うなんてことはない。すくなくとも、お空に向かって叫ぶだけではなにも叶わないだろう。魔法のランプもドラゴンボールもないのだから。

本作はタイトルの通り、七つの願いが叶う箱を手に入れた女子高生が、その願いの代償に苦しめられるという話。ホラー映画ではよくある、願いと代償の等価交換が割に合わない系だ。

ホラーではあるがけっして重たくはない、コメディ寄りの作品である。90分と見やすい尺であり、ティーン向けホラーのお手本のような作品だろう。

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

女子高生のクレアは、父とともに貧しい暮らしをしている。父は廃品回収で生計を立てており、クレアはそのことで学校でからかわれながらも、親切な隣人や親友に囲まれて平凡に暮らしている。ただ、幼いころに目の前で自殺した母のことだけが、彼女を悩ませている。

ある日、父は大きな屋敷の近くで、中国風の装飾が施された箱を見つけて家に持って帰る。学校でクイーン的存在のダーシーと取っ組み合いの喧嘩をしたクレアは、隣人のデルーカから手当てを受けて家に帰る。帰ってきたクレアに、父は誕生日プレゼントだと言って、拾ってきた箱を贈る。学校で中国語を習っているクレアは、箱に書かれていた「七つの願い」という言葉を読み取る。ダーシーがSNSで自分のことを罵っていると知ったクレアは、「ダーシーが腐ってしまうように」と箱に願う。

その夜、箱がひとりでに開く。箱はオルゴールで、勝手に音楽が鳴る。しばらくすると音楽は止み、箱はまたひとりでに閉じる。

翌朝、クレアは友人のメレディスから、ダーシーが壊死性筋膜炎という病気になったことを聞き、顔の一部が黒く変色したダーシーの写真を見せられる。ダーシーの友人たちが彼女のためにと寄付のお願いをしにくるが、メレディスが彼らを追い払う。クレアはこの偶然を奇妙に思いながらも、ダーシーの身に降りかかったことにほくそ笑む。

家に帰ったクレアは、愛犬のマックスの姿が見えないことに気が付く。音をたどって床下に潜ったクレアは、ネズミに食い荒らされたマックスの死体を見つける。マックスの死に悲しみながらも、クレアは父やデルーカとともに死体を埋める。

箱の文字が気になったクレアは、学校の中国語の先生に写真を見せるが、古い中国語だからわからないと言われる。その様子を見ていた中国系のクラスメイトであるライアンが、知り合いに専門家がいるから尋ねてみるかと提案するが、クレアは断る。

クレアの片思いの相手であるポールには恋人がいる。恋を成就させたいクレアは、箱にポールが自分に惚れてくれるようにと願う。すると翌日、今までほとんど話したこともないポールが彼女に声をかけてくる。有頂天になるクレアだったが、家ではオルゴールが鳴り、近所に住む親せきのオーガスト伯父さんが浴槽で頭を打って死ぬ。家に帰って来てオーガスト伯父の訃報を聞くクレア。オーガスト伯父と父は折り合いが悪く、資産家だった伯父の遺産は一文たりとも自分たちに入らないと知る。些細なことで父と喧嘩したクレアは、いきおい箱に遺産がすべて手に入るように願う。まもなく、父に電話がかかってきて、オーガストの遺産がクレアのものになると伝えられる。さっそく伯父の豪邸に越したクレアは、友人のメレディスとジューンとともに豪遊し、パーティーを開く。

幸福に満たされていくクレアの人生。しかし、重すぎる代償を払わされることを、まだ彼女は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

誰かの願いが叶うころ

願いが叶えられるたびに、身近な人が死んでいく。そして七つ目の願いが叶ったときには、願った者自身の命が失われる。それが本作のオルゴールのルールである。

ホラーにはよくある設定で、その点に目新しさはないが、脚本は綺麗にまとまっているしキャラクターも立っている。恐怖という点でホラー感はないものの、「ファイナルデスティネーションシリーズ」に近い面白さがあるだろう。

代償となる犠牲者は願うたびに身近な人物になるようだ。はじめのマックスと四番目のジーナは例外としても、二番目はオーガスト伯父、三番目はデルーカ、五番目はメレディスで六番目は父、そして最後は自分自身だ。こうすることで、箱は自分の仕掛けを使用者に気が付かせて追いつめているのかもしれない。

犠牲者の死に方に工夫を凝らしているのは評価できる。淡々と死んでいくのではなく、どうやって死ぬのか、どちらが死ぬのかが丁寧に描かれている。この点は「ファイナルデッドシリーズ」に似ている。

料理をするデルーカ。彼女が犠牲になることはわかっていながらも、排水口についたディスポーザーに巻き込まれるのか、火の点いたヤカンで火傷を負うのか、視聴者の視線を画面から離さない工夫が見て取れる。「ファイナルデッド」のようなピタゴラ感はさすがにないが、十分に面白い。

メレディスと父のどちらが犠牲になるのかも、なかなかにハラハラする展開だ。かたやエレベーターでかたや車の故障。二人ともキャラが良いだけに、どちらが死んでも惜しいと思わせる。

ラストも予想のできた展開だが良い締めになっている。また、エンディング後にあるライアンのシーン。箱を埋めるように頼まれた彼だが、箱に書かれた文字を見てなにかを考える。彼がクレアを生き返らせるように願って、悲劇がループされることを予期させる。面白いおまけだ。

総じてストーリーは丁寧に作られている。ただ、箱に憑りつく?悪魔(ヤオグアイ)を掘り下げなかったところは物足りない。

 

シャノン・パーサーの親友力

キャラクターの良さもこの映画の見どころだ。とくに主人公のクレア、親友のメレディスとジューンは際立っている。

クレアは家庭環境を周囲にからかわれるが、けっして縮こまったりせずに、むしろクイーンビーのダーシーを罵って喧嘩をしかけるという強さを持つ。まじめに「チコウ」ってなんだろうと考えた時間を返して欲しい。

しかしながら、彼女は強いだけの少女ではなく、母のように自分が自殺するのではないかと悩んだり、他愛もないことを願ったり、願いが叶うたびに大切な人を失いながらも箱に執着してしまうなど、とても等身大なキャラクターだ。彼女がなかなか箱を手放さないことに苛立ちを覚えながらも、共感できる部分も大きい。途中で覚醒したかのように強くなることが多いホラー映画のヒロインとしては、とても身近に感じられるキャラクターである。

親友のふたりは、自分の友人にも欲しくなるキャラをしている。

メレディスは個人的に一番のお気に入りだ。ダーシーのために寄付にきたジョックたちに中指を立て、クレアとダーシーの喧嘩では加勢しようと闘志をむき出しにしている。大金を手に入れたクレアからカバンを買ってあげると言われて、親友だからそんなことはしないと拒否して、友人思いなところを見せる(結局は買ってもらったが)。クレアに箱のことを相談されたときに、悩める友人に自己チュー女と言えるところも、彼女たちの仲の良さを表している。口や態度は悪いが、心の底から友人を思っており、理想的な気の置けない友人だ。

ジューンはもう少し変わっていて、クレアとメレディスに比べると口数が少ない。基本的にふたりを諫める立場にある。箱の代償に悩むクレアに真っ当なアドバイスを与えたりした。けれども、躊躇なくクレアにバッグをおねだりしている。このシーンは彼女の強かさと、彼女たちの友情の強さを物語っていて、それまで薄かったジューンのキャラが一気に立ったシーンだろう。メレディスの件で一度はクレアを責めたものの、盗みにはいるというそれまでの彼女からは想像もできないほど大胆なことをしてまで、親友の命を救おうとする。メレディスといい、実に良い友人キャラだ。

ジューンを演じるシャノン・パーサーは、Netflixオリジナルの『ストレンジャー・シングス』で、主要キャラのナンシーの親友であるバーバラを演じている。登場回数は少ないキャラだが、ジューンと同じく友人思いであり、シーズンを重ねて様々なキャラが登場しても、忘れられないキャラだろう。シャノン・パーサーは主人公の親友を演じさせればピカイチなのだろう。

この三人のキャラが良すぎて、彼女たちを見ているだけで面白い映画になっている。そのぶん、ライアンの印象が薄いのがもったいないかもしれない

 

 

まとめ

まとまった丁寧なストーリーに共感できるキャラクターたちと、傑作というわけではないが良作といえる作品。ホラーを期待してみると物足りないだろうが、一風変わった青春映画として見れば、満足度の高い作品だ。