自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ヘル・レイザー

ヘル・レイザー』(原題:Hellraiser)

1987年 94分 イギリス

評価 7点/10点満点中

 

サディズムマゾヒズム。「異常性欲」に分類される性癖だが、現在では「SかMか?」という問いは、「好きな芸能人は?」と同じくらいにポピュラーだ。Sっ気があるというのは少々強引で、Mっ気はリードされたいくらいのニュアンスで使われていることが多い。だが、本来のSMはもっと痛々しいものだ。

ヘル・レイザー』はSMがテーマのホラー映画である。フランク・コットンは究極の快楽のためにパズルボックスの封印を解き、異世界で永遠の苦痛に囚われることになる。それから時間が経ち、偶然にも不完全な形で復活したフランクは、かつて関係のあった弟の妻を唆して復活を試みる。

評価には賛否両論あるものの、シリーズ化される人気を得た作品。半ば溶けた肉を身にまとうフランクの姿や、派手さのない生々しく痛々しいゴア描写。なによりもピンヘッドをはじめとする異世界の魔道士「セノバイト」たちが有名な作品。セノバイトは漫画『ベルセルク』に登場する「ゴッド・ハンド」をはじめ、さまざまなキャラクターのモデルになった。見てると痛くなる映画だが、ホラー映画の歴史に名を刻む一作であり、素晴らしいキャラクター造形に引き込まれる。『ベルセルク』が好きな人は一見の価値ありだ。

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

フランク・コットンは、ある商人から細工のされた箱を買う。フランクがその箱を使って儀式に臨むと、箱はパズルのように形を変える。どこからともなく鉤のついた鎖がいくつもとんできて、フランクの体を引き裂く。黒衣の男が現れて、ばらばらになったフランクの肉片をつなぎ合わせて彼の顔を作ると、パズルボックスを組み替える。

それから時間が経ち、フランクの弟であるラリーが再婚相手のジュディとともに、母が亡くなってから空き家だった実家を見に来る。なかを見ていると、ジュディは人が住んでいた形跡を見つける。ふたりは住んでいたのがフランクだと察する。ラリーは娘のカースティとの電話で一緒に住もうと提案するが、カースティは独り立ちしたい断る。引っ越しに不満があったジュディだったが、結局は納得して、二人はこの家への引っ越しを決める。

引っ越しの日、ジュリアはフランクの残していた写真から、自分と彼が二人で写ったものを取り出して引き裂く。ジュリアはフランクと肉体関係にあったことを思い出す。ジュリアは三階にあがり部屋のひとつにはいる。そこはフランクがパズルボックスの儀式をした部屋であり、ジュリアはフランクとの情事、関係を続けるためならなんでもすると彼に言ったことを思い出す。そこに、ベッドの搬入で手に傷を負ったラリーがやってくる。深い傷を負ったラリーを、家に来ていたカースティとともに病院へと運ぶ。床に流れたラリーの血が床板に吸い込まれ、その下にある肉片がうごめく。床板が浮き上がると、どろどろに溶けた肉片が現れて、寄り集まると人型になる。

ジュディは引っ越し祝いのパーティーを体調不良を言い訳に抜け出すと、三階の例の部屋へと向かう。ジュディはそこでフランクを名乗る溶けた人間を見つけて驚く。ラリーの血でよみがえったと言うフランクは、完全復活のためにはさらに血が必要で、そのためにジュディの助けを求める。ジュディはしばらく考えたあとにそれを承諾する。一方で、カーティスは路上で不気味な男に出会い、父が死ぬ夢を見る。

ジュディはバーに行くと、隣に座っていた男を自宅に誘う。男を三階の部屋に連れて行くと、後ろから鈍器で殴打する。フランクは男の死体に近づくが、ジュディは部屋から追い出される。完全に復活したなら、どこか遠くへ逃げようとフランクは言う。セノバイトから逃げるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

我々の業界でも拷問です

本作における重要なテーマが、「苦痛と快楽」である。序盤でフランクがパズルボックスを開き、鉤と鎖に身を引き裂かれるという痛々しい場面がある。フランクは快楽を求めていたらしいが、彼は極端なマゾヒストなのだろうか? それならどうしてセノバイトから逃げ出したのだろう?

この点に関して映画では説明不足だが、原作では説明されているらしい。英語のwiki情報になるが、フランクは快楽主義者であり、人に究極の快楽を与えるというパズルボックス(ルマルシャンの箱)を求めていた。そして彼はそれを手に入れて、いざ快楽を味わわんとたぶん全裸で挑んだのだろうが、でてきたのが綺麗なお姉さんではなく、スカリフィケーション(火傷でできるケロイドで体に文字や絵を刻むこと)を施した恐ろしいセノバイトであることに仰天。それでも快楽が手に入るならと、契約は覆せないよというセノバイトの忠告を聞かずに契約。するとぶっ飛んだSMプレイが始まったもんだからフランクは後悔し始める。しかし、時すでに遅く、彼は永遠にセノバイトに囚われてしまうことに、らしい。つまるところ、期待しながら風俗店にはいったら、お姉さんではなく刺青のお兄さんが出てきて痛めつけられるということだ。フランクにとってもセノバイトのプレイは予想外のものであり、彼が逃げ出しい理由はそこにある。ちなみに、原作ではラリーの血と床にしみ込んでいたフランクの精液が混ざったことで復活できたらしい。のちのお楽しみを想像して自家発電に耽っていたのだろう。

セノバイト界隈では、体を引き裂かれることは究極の快楽らしい。現実世界でも、自身の性器を切開することに快楽を見出す人間や、スカリフィケーションというものがこの世界に存在する。今回の感想を書くにあたりいろいろ調べたのだが、見てるだけで寒気がするほど痛い。

我々の業界でも拷問です、とフランクも思ったようで、セノバイトは人間の理解を超えた恐怖の存在らしいのだが、いかんせん登場するシーンが少ないうえに描写が断片的なので、あんまり恐怖を感じない。むしろ主人公のカースティを助けることになるので、善玉にも見えなくもない。

セノバイトのデザインは秀逸だ。リーダー格のピンヘッドも当然だが、喉を切り開かれたフィメール、腹が割けているサングラスのバターボール、ねじれた顔のチャタラー。四人とも格好や雰囲気は似ているのだが、すぐにそれぞれの違いが分かるほどに個性的だ。ほかにもセノバイトの次元にいた怪物も、チープさはあるが生理的嫌悪を感じるデザインをしている。痛々しいSMのモチーフが活かされた素晴らしいデザインである。自分たちの獲物が逃げていても気が付かないし、パズルボックスで瞬殺されるお茶目な面もあるのが面白い。

 

マゾヒズムNTR

本作はティーンの少女が主人公のオーソドックスなホラーであるとともに、ジュリアという中年女性のお話でもある。むしろジュリアがメインパートだろう。

優しく誠実なラリーにたいして、快楽ばかりを求めるフランク。対照的な兄弟だ。ジュリアは戸惑いながらも、フランクの求めることに応じて殺人にまで手を染める。ラリーというものがありながらと思ってしまうが、フランクのもつ危険な雰囲気に惹かれたのだろう。また、夫の兄弟という背徳感もあったのかもしれない。フランクがジュリアに手を出したのも、弟の妻を寝取りたいくらいの動機なのではないだろうか。

ラリーは実に可哀そうなキャラクターで、自分の妻が昔から兄に寝取られていたことも知らず、最後には訳もわからぬまま殺されて、姿を乗っ取られる。彼は非常に妻と娘に優しい人物として描かれていおり、彼の不遇さがよく際立っている。ラリーはすごくサディスティックな扱いを受けている。

マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』では、主人公が最後に愛人を寝取られてしまう。彼自身はマゾヒストではないが、ラリーはマゾヒズムの正統にいるようなキャラクターだ。

それほど恐ろしくないセノバイトに代わって、ホラー要素を一手に担うフランク。夫から寝取った女を利用した挙句殺し、弟も殺す。皮膚が剥がれて肉がむき出しになった姿も相まって、実に恐ろしい。彼自身が暴れまわるのは終盤だが、ジュリアを唆して血を手に入れるさまは、セノバイトと比べるとどっちが悪魔かわからなくなる。

主人公のカースティが平凡なキャラクターだったのが残念。また、彼女をストーキングしていた男の正体もよくわからない。パズルボックスの化身とかセノバイトの使い魔みたいなものだろうか。セノバイトの登場シーンも増やして欲しかった。

 

 

まとめ

SMホラーという新境地を開いた作品。全体的な出来はそこそこだが、優れたモンスターデザインはのちの作品に大きな影響を与えた。セノバイトを見るために視聴してもいいだろう。

 

おまけ

ピンヘッドを美少女化したフィギュアがある。モチーフは踏襲しながらも見事に美少女となっている。スキンヘッドだが。ちなみに、ジェイソンとフレディも美少女フィギュアになっている。