自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄

『ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄』

 (原題:Pay the Ghost)

2015年 94分 アメリ

評価 5点/10点満点中

 

ニコラス・ケイジ。作曲家である祖父を始め、『ゴッドファーザー』の監督であるフランシス・フォード・コッポラを叔父に、『ロッキー』でエイドリアンを演じたタリア・シャイアを叔母に持つ芸能一家に生まれ、自らもオスカー像と多数のヒット作を持ち、モト冬樹に似ていることでも有名なハリウッドスター。その浪費癖によって百億円以上の資産を融かして借金まみれなところもハリウッドスターらしい。

近年は借金返済のために映画にでまくっているニコラス・ケイジ。当然、出る作品を選んでいないので、出演作は玉石混淆。批評家にボコボコに叩かれた作品も少なくない。

本作の内容はニコラス・ケイジ演じる主人公が、ハロウィンの日に突如姿を消した息子を追うホラー・ミステリー。本国アメリカでは全国公開されず、ぶっちゃけ評価も低い本作だが、やはりニコラス・ケイジの地力にはひかれるところがあり、ストーリーもそれなりにまとまっている。また、ある一つの要素の登場で、個人的には嫌いではない作品。もっとも、面白いとか良作だとかは言えるものではない。ニコラス・ケイジが好きなら一見の価値があるかもしれない。

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

1679年、ニューヨーク。動物の仮面をつけた三人の子どもが地下室に隠れている。彼らは怯えており、地上からは男たちの怒声が聞こえる。地下室の扉が破られて、子どもたちは悲鳴をあげる。

時は過ぎ現代のニューヨーク。大学で教鞭をとるマイクは、終身教授職を得るために、毎晩遅くまで論文の作成に取り組んでいる。

ハロウィンの日、マイクは息子のチャーリーと仮装をして街を歩く約束をしていたのだが、終身教授に選ばれたことを知り同僚のハンナと共に喜んでいたこと、タクシーがつかまらなかったこともあり、約束に遅れてしまう。マイクが家に着いたときには、チャーリーと妻のクリステンは家を出て行ったあとだった。

チャーリーは海賊の仮装をして街を歩く。その途中、不気味なコンドルを見る。家の近くに戻ってきたチャーリーはカーニバル会場に行きたがるが、明日も学校だからとクリステンは許可しない。そこにカウボーイ姿のマイクが現れ、少しだからとクリステンを説得し、遅れてしまったことの詫びもかねて、チャーリーをカーニバルへと連れていくことにする。そして、教授職を得たことをクリステンに伝えると、彼女はマイクを抱きしめる。

若者たちでにぎわうカーニバル会場。チャーリーはその様子をカメラで撮影しながら見ている。チャーリーは路地の入口に立つボロを着た人物が自分を指さしたのを見るが、少し目を離したすきにその人物は消えてしまう。そしてまたコンドルを見たチャーリーは、「幽霊に借りを払って」(Pay the ghost)とマイクに口走る。その言葉の意味が分からなかったマイクだが、とくに不思議に思うこともなく、チャーリーのためにアイスを買うことにする。しかし、つないでいた手を会計のために離した一瞬の隙に、チャーリーの姿は消えてしまう。

狂乱するようにチャーリーを探すマイク。やがて警察も加わりチャーリーの捜索が行われるが、チャーリーは見つからない。失望と悲しみ暮れるマイクは、チャーリーを見失ったことをクリステンに責められ、マイクは泣き崩れる。

真夜中、物音で目を覚ましたマイクはチャーリーの部屋に入る。窓から外を見て振り返ると、そこにチャーリーが立っており、マイクは息子を抱きしめて喜ぶ。チャーリーが窓の外を見てと言うので、再び窓から外を覗くがなにも見えない。もう一度と言うチャーリーに応えて、三度窓外を見るマイク。すると大きな影が通りに伸び、女の顔が窓の外に現れる。

そこで目を覚ますマイク。すでにチャーリーの失踪から一年経っており、クリステンとは別居。マイクは大学教授の仕事をしながら、チャーリー失踪の情報を集めたり、ポスターを作っては街に貼る生活を送っている。警察署にポスターを持って行ったマイクは、担当のジョーダン刑事を捜査の怠慢で責めるが、ジョーダンは分厚いファイルを指し示して反論。喧嘩別れのように警察署を出たマイクがチラシを貼っていると、バスに乗っているチャーリーを見かける。追いかけてバスに乗るマイクだが、チャーリーの姿はない。

バスを降りたあとマイクはコンドルが廃墟に入っていくのを見る。追って敷地に入ると、建物の壁にはPAY THE GHOSTの落書きが。中に入ると、そこには浮浪者たちがキャンプを築いており、落書きの意味を浮浪者たちに尋ねるマイク。そこに盲目の男がやってくると、追うようにしてうめき声のようなものが響く。声のことを盲目の男に尋ねると、男はついてこいと言う。マイクは男に案内された場所で、無数に書かれたPay the ghostの文字を見る。言葉の意味を男に尋ねると、そのままだと返される。

マイクは超常的なものがチャーリーをさらった可能性を考え、クリステンにそのことを話すが、クリステンは荒唐無稽な話に激怒する。

マイクは、チャーリーがいなくなった当日彼が回していたビデオの映像を見る。するとノイズのあとに、一軒の小屋の映像に変わる。開いた小屋の中には、仮面をつけた子どもたちが無数に立っている。

チャーリーを連れ去ったのはいったいなんなのか? そしてマイクは息子を取り戻すことができるのか?

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

期待は低いほうがいい

前述したように、近年のニコラス・ケイジ作品の出来はよろしくない。なので今作もまったく期待してなかったのだが、個人的には駄作というほどではなかった。ストーリーに大きな破綻も存在しないし、息子を探し求めるニコラス・ケイジの演技はさすがのニコラス・ケイジというレベル。結末もハッピーエンドながらホラーらしいものだった。映画として十分に見れるレベルだと思う。

だが、面白いかどうかとなると別だ。ホラーとしては恐怖要素が足りない。かといってミステリーとして見ても、謎を解くというよりも映画からぽんぽんと答えを提示してもらい、それを追っていく展開が続くので面白くはない。

しかしながら、幸福に満ち溢れた家族が突然崩壊し、家族を取り戻すために奮闘する主人公の姿、妻との和解や息子との再会などのシーンには光るものがある。ホラー要素を交えずに、失踪した息子を探す父の物語にすればもっと良かったのではないだろうか。

時間を使い映画で見たいと思えるほど出来のいいストーリーではない。致命的に盛り上がりに欠けるし、ジャンル分けするにもホラーもミステリーも中途半端な要素しか持ち合わせない。しかしながら、ある要素が登場したことで、本作に対する個人的な評価が少しあがった。それはケルトの三相女神である。

 

3:神聖なるその数字

ケルト神話に対する完全な趣味の感想です。

3というのは古来より神聖な文字とされてきた。なぜかはわからない。だが、最も角が少ない多角形は三角形であり、昔の人々はそこに安定とか調和を見出したのかもしれない。キリスト教における三位一体、ヒンドゥー教における三柱(シヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマー)、北欧神話の運命をつかさどるノルン三姉妹、同じくギリシア神話で運命をつかさどるモイラ三姉妹。ゴルゴンだって三姉妹だし、日本神話において黄泉から帰ったイザナギがみそぎを行った際に生まれたのも三貴子(アマテラス、ツクヨミスサノオ)である。

この三つで一つという考えは、どうやら女神に多いらしい。上述したように、ギリシャ神話、北欧神話にも三女神が存在している。本作において取り上げられたケルトの三相女神だが、これはおそらくモリガン、マッハ、バズヴの三女神のことで、彼女たちは戦いをつかさどる苛烈な女神たちだ。とくにモリガンは、ケルト神話における最大の英雄クー・フーリンとのかかわりで有名だ。

子どもを殺され復讐の悪霊と化したアニーが信奉していたのは、この三女神だったのだろう。想像で補完するならば、アニーは復讐のために三女神の力を借りて、その代償としてハロウィンの日に三人の子どもをさらい生贄とする。うん、たぶんこんな感じである。ハロウィンも、悪霊を追い払ったり豊穣を祈るために生贄をささげるケルトの祝祭がもとだと言われている。というわけで、本作は意外にもケルトフィーチャーの映画だったわけである。ただ、ケルト復興主義者がニューヨークに入植というセリフがあったが、ケルト復興運動は19世紀後半に始まったものであるので、17世紀の人物であるアニーとはズレまくっているのはツッコミどころか。一応、19世紀に起きたジャガイモ飢饉によりアイルランドからアメリカに大量の移民があったのは事実なので、そっちを指している可能性もある。

以上、完全に趣味の節でした。

 

借りは返した?

本作で頻繁に取り上げられるPAY THE GHOST(幽霊に借りを返せ)という言葉。これは翻訳の都合なのか、正確な意味が取りにくい。てっきりなにかしらの手段を用いて(借りを返す)、アニーの怒りを鎮め息子を取り戻すのかと思いきや、作中でマイクがそのようなことをした描写はない。これがずっと引っかかっていたのだが、後半のマイクたちがアイルランド系の女性に女神のことを尋ねるシーンの会話を英語で聞くと、マイクが「子どもで幽霊(アニー)に借りを払う」と言っていたので、子どもがさらわれること自体がPAY THE GHOSTというわけなのだろう。翻訳って難しい。

というわけで、借りを返してもらえなかったアニーさんは怒り爆発で、とばっちりで死んだハンナの体に乗り移ったのだろう。続編とかはないだろうから、とくに気にしなくてもいいと思う。

もう一つ、あの盲目の男や浮浪者たちは何者だったのだろうか? 盲目の男の言葉を聞くに、浮浪者たちはみな幽霊だろう。しかしながら、あの世への道を管理しているように見える盲目の男はいったいどういう存在なのだろうか。

 

 

まとめ

面白いと人に勧められる映画ではないが、飛び抜けて駄作というわけでもないというのが世間の評価だろう。ハロウィンとケルトに注目した点は私的に面白かったのだが、そこに興味のない人にとっては、見なくてもいい映画だ。ニコラス・ケイジが再び名作映画の主演として輝ける日は来るのだろうか? そしてPay his debts(借金を返す)日はいつになるのだろう。