自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ドニー・ダーコ

ドニー・ダーコ

  (原題:Donnie Darko)

2001年 113分 アメリ

評価 7点/10点満点中

 

何度も聴いて良さがわかる曲をスルメ曲という。噛めば噛むほど味がでるスルメイカに例えられる。ならば何度も見て面白さがわかる映画はスルメ映画だろう。

世の中には難解な映画が多く存在する。単純に何度も見ないと映画に仕掛けられたトリックがわからないもの。ミステリーに多い。

何度も見なければ、仕込まれた比喩や寓意が理解できないもの。こちらのジャンルわけは難しい。近年話題になったのは、ジェニファー・ローレンス主演の『マザー!』だろうか。ややもすれば意味不明な映像になる可能性があるこれらの映画は、人によって好みが完全に分かれるだろう。

本作『ドニー・ダーコ』も難解な映画として有名だ。実際に見てみると、ほとんどの人はわけのわからないままエンディングロールが始まっただろう。自分もそうだ。これを一度見ただけで理解できる人がいれば、その人は超能力者かなにかだと思う。後述するが、映画本編以外のところで謎の解き明かしがあるからだ。

話の大筋は、精神的に不安定だが平凡な高校生ドニー・ダーコの部屋にジェット機のエンジンが落下する。ドニーは幻聴に導かれて外にいたので助かるのだが、その日からウサギの着ぐるみを着た男の幻覚が彼を悩ませる、というものだ。

さっぱりわからないが、鑑賞後でもまったく理解が進まないので安心してほしい。今回は、公式の情報や様々なサイトの情報をもとに考察もしてみた。考察の内容は他のかたのものと被る部分が多いと思うがご容赦を。

 

 

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

高校生のドニー・ダーコは、両親と姉、妹の家族五人で平凡に暮らしている。ただ、ドニーには精神的に不安定なところがあり、夢遊病に悩まされている。

1998年10月2日の夜、どこからともなく聞こえた「起きろ」の声によって、ドニーはベッドから起き上がり部屋を出る。声は続く。「お前を見ていた」「こっちへ来い」「もっとだ」 声に導かれるまま家を出たドニーは、庭先にウサギの着ぐるみを着た人物が立っていることに気が付く。ウサギは「あと28日と6時間42分と12秒で世界が滅びる」と言う。夜遊びから姉のエリザベスが帰宅したとき、大きな振動がダーコ家を襲う。

目を覚ましたドニーは、自分がゴルフ場で寝ていたことに気が付く。友人の父に起こされたドニーは、自分の腕にマジックペンで書かれた2864212という数字を見る。

家に帰ったドニは、飛行機のジェットエンジンが自分の部屋から引き上げられる光景を目にする。ドニーの姿を見て安堵する家族。ジェットエンジンがドニーの部屋に落ちたのだと言う家族。一家は連邦航空局の補償によってホテル生活を余儀なくされる。

ホテルで両親が高校で同級生だったフランキーの話をする。フランキーは卒業の少し前に亡くなっていた。父はフランキーのことをドニーに重ね合わせる。兄弟たちがいる部屋ではテレビでニュースが流れている。ニュースによるとエンジンを落とした航空機の行方は不明とのこと。

翌日、事件のことで友人たちにからかわれるドニーだが、普通の一日を過ごす。

英語の授業を受けるドニー。作品はグレアム・グリーンDestructors。思春期と破壊を結びつける作品の解説の最中、転校生のグレッチェン・ロスが現れて、ドニーの横に座る。

ドニーは精神科のカウンセリングに通っている。父に乗せられてカウンセリングに向かう途中、父は危うく老婆を轢きかける。死神オババというあだ名で有名人のスパロウ老婆は、毎日ポストに手紙が来ていないかを確認しては家に戻るということを繰り返している。ドニーがスパロウに近づいたとき、老婆はドニーの肩を掴みささやく。   「生き物はみんな孤独に死ぬのさ」

精神科医のサーマンのカウンセリングで、ドニーはイマジナリーフレンド(空想上の友達)の話をする。友達の名はフランクで、彼はドニーに「世界が終わる」「未来へ来い」と語る。終わると思うか、というサーマンの問いに、ドニーはバカらしいと返す。

学校では体育教師のキティ・ファーマーが、彼女が傾倒している自己啓発家のジム・カニングハムのビデオを生徒たちに見せている。恐怖克服セミナーという題のビデオは、愛が恐怖を克服すると言う。そのビデオを、ドニーは睨むように見る。

その夜、ドニーは水浸しになった学校の廊下を夢で見る。フランクが彼を起こす。ドニーは斧を持つと、学校に向かい水道管を斧で破壊する。

10月6日、ドニーは登校中に友人から休校の知らせを受ける。学校が水道管の損傷により水浸しになっているためだと友人は言う。学校では教師たちが学校に立つ犬の大きな銅像の前に立ち、銅像の頭に刺さった斧を呆然と見る。

地面にはThey made me do it(彼らがやらせた)の落書きがある。

帰路を歩くドニーは、グレッチェンが不良に絡まれているところを助ける。そのまま彼女を家に送る道すがら、彼女の家庭の事情を聞く。彼女の義父が母の胸を四度刺して逃走中なので、彼女は母とともに義父から逃れるために越してきたのだと言う。義父の精神に問題があったと彼女が言うので、ドニーも自分の精神的な問題を話す。ドニーは以前、廃屋に放火して捕まり、一年留年していた。別れ際、ダメ元でグレッチェンに告白したドニーは、まさかのOKをもらう。

世界が滅びると告げる幻覚に悩まされるなか、恋人ができたドニー。彼に不可解な行動をとらせるイマジナリーフレンドのフランク。フランクの干渉が強くなり、ドニーの言動は変わっていく。ジェットエンジンの落下。ウサギの着ぐるみを着たフランク。そしてハロウィンに滅びる世界。あまりにも無造作に散らばった点を繋げる線を、あなたは見つけ出すことができるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

考察と感想(ネタバレあり)

「何なのだ、これは!どうすればいいのだ⁉」

本編を最後まで見終わったとき、いきなり新宿上空に飛ばされた気分だった。   

なぜ最後にフランクがグレッチェンを轢き殺し、彼女の死体ドニーが丘の上に上る。すると母とサマンサが乗った飛行機のジェットエンジンが落ちて、ドニーの家の上に発生した竜巻のような雲に吸い込まれる。時間が10月2日まで巻き戻り、狂ったように笑うドニーの部屋にジェットエンジンが落ちてくる。

自分がかろうじて理解できたのは、なにかを悟ったドニーの選択によって時間が巻き戻った。ドニーが10月2日のエンジン落下で死亡する。そうすると本編で起きた出来事にいくつかが、起こらなくなるわけだ。例として、

・グレッチェンとドニーが出会わない⇨グレッチェンがフランクに轢き殺されず済む

・ジムの家が火事にならない⇨彼は小児性愛がバレずに済む⇨これにより、母とサマ ンサは飛行機に乗らず、エンジン落下事故に巻き込まれない

・ドニーがいない⇨フランクは彼に撃ち殺されない

ドニーは『タイムトラベルの哲学』を読んでなにかを悟り、自分が死ぬことがわかっているにもかかわらず、グレッチェンを救うために時間を遡る決断をする。

謎はかなりある。以下に箇条書き。

・フランクがドニーに語りかけるのはなぜか

・フランクの正体、そして彼がなぜグレッチェンを轢き殺すことになったのか

・未来のジェットエンジンが、なぜドニーの部屋に落ちてきたのか

・ドニーはなぜフランクの幻聴に従って、水道管を壊したりジムの家を燃やしたのか

・ドニーが斧をブロンズ像に突き立てられたのはなぜか

・フランクが言う「世界が滅ぶ」とはなんなのか

・胸から突き出る水のようなものはなにか

・グレッチェンが出会ったばかりのドニーの告白をOKしたのはなぜか

・「彼らがやらせた」の彼らとは誰か

・ドニーがフランクを撃ち殺すことになる拳銃を手にしたのはなぜか

・ドニーはなぜジムを講演で煽ったのか

・英語教師が「地下室の扉」のことをドニーに語り、彼がなぜパーティーのさなかに死神オババの家の地下室に向かったのか

・死神オババはなぜ毎日ポストを覗くのか

細かいことはいろいろあるが、簡単にあげただけでもこれだけある。本作はタイムトラベルが主要なテーマのひとつなのだろうが、その点がさっぱりわからないのだ。この謎を解き明かすために必要なのが、作中に登場する架空の本『タイムトラベルの哲学』である。

 

『タイムトラベルの哲学』

本編ではほとんど内容を知ることのできないこの本だが、公式のウェブサイトやDVDの特典として内容が公開されたらしい。残念ながら公式のウェブサイトは見れなかったのだが、内容を書いた海外の考察サイトがあったので、内容を簡単に紹介しようと思う。

まず、世界は基本的に「真宇宙(Primary Universe)」にある。真宇宙は三次元と四次元目となる時間で構成されており、時間の構造は非常に安定していて強固である。しかし、その構造が破れることがあり、そのとき「分岐宇宙(Tangent Universe)」が発生する。分岐宇宙は非常に不安定であり、数週間しか持続しない。分岐宇宙が崩壊するとき、真宇宙を崩壊させるほどのブラックホールが発生する。下記で解説するアーティファクトを分岐宇宙から真宇宙に戻すことで、分岐宇宙から真宇宙に世界は戻る。

水と金属はタイムトラベルのキーとなる。水は真宇宙と分岐宇宙を結ぶポータルを守る役目があり、金属はポータルを開けて通過する。

金属でできたアーティファクトが分岐宇宙を発生させる。そして、分岐宇宙が発生したときに、その発生地点の最も近くにいた存在はアーティファクトに関心を抱く。

分岐宇宙では誰かが「生ける受信者:Living Receiver (以下受信者)」になる。受信者の役目は分岐宇宙に現れたアーティファクトを真宇宙へと戻すことであり、そのために四次元の力を得る。四次元の力は、筋力の向上、念動力、マインドコントロール、火と水を操る力である。また、受信者は悪夢や幻覚、幻聴に悩まされる。操作(Manipulated)と呼ばれるこの現象は、分岐宇宙がある間続き、受信者に恐怖を与える。

受信者の近くには、「操作される生者:Manipulated Living」が発生する。彼らは分別を無くして暴力的な傾向がある。また不可解な行動をとるが、それらの行動は、アーティファクトを四次元宇宙に戻すためのものである。

分岐宇宙で死んだ者は、「操作される死者:Manipulated Dead(以下死者)」となる。死者は受信者よりも強力な存在で、四次元の力を使い受信者に接触して彼らを操る。死者はアーティファクトを真宇宙に戻すために、受信者に対して罠を仕掛ける。この罠が成功すれば、受信者は四次元の力を使いアーティファクトを真宇宙に戻すことを余儀なくされる。

操作を受けた者たちは、真宇宙に戻ったあとも、分岐宇宙で起きたことを夢に見るが、多くの者は覚えていない。分岐宇宙を夢で見るものは、そこでした行いに対する後悔に打ちのめされる。分岐宇宙が存在した物理的な痕跡は、アーティファクトのみである。

以上が『タイムトラベルの哲学』の要約である。簡単にと書いたがずいぶん長くなってしまった。原文も短いものなので、もしかしたら日本語訳がネットに転がっているかもしれない。自分の英語力は微妙なので、細かな間違いはあるかもしれないが、おおむねあっていると思う。また一部の用語は直訳でなく、意訳している。『タイムトラベルの哲学』の内容を踏まえて、本編の考察をしていく。

 

「・・・つまりどういうことだってばよ」

以上の内容を見ても、すんなり理解できる人はいないだろう。自分もこれを読んでもなかなか理解できなかった。

まず、10月2日を期に、作中世界は分岐宇宙に入った。そして、10月30日に分岐宇宙は崩壊してブラックホールが生まれ、真宇宙が崩壊する。これがフランクの言う「世界が滅びる」である。それを回避するためにドニーが受信者に選ばれた。分岐宇宙内で死亡すフランクは操作された死者であり、操作された生者である。グレッチェンも同様に死亡するが、彼女の操作された死者としての活動はわからない。なっていないのかもしれない。操作された生者は、多くの登場人物が当てはまる。特に重要なのがグレッチェンだ。

重要なフランクとグレッチェンの役目を見ていこう。

10月30日の日に死ぬフランクは、ドニーを導く操作された死者/生者に選ばれる。死者のフランクは幻覚と幻聴としてドニーの運命を操作する。生者としての彼の役目は、グレッチェンを轢き殺すことだ。グレッチェンの役目はドニーの大切な人となり、フランクに轢き殺されること。彼女が大切な人になることで、彼女が生きる時間を選択し、自らが死ぬにもかからわず、ドニーはアーティファクトであるジェットエンジンを真宇宙に戻すのである。ドニーは念動力を使って飛行機からジェットエンジンを切り離し、タイムポータルを通して10月2日の自室に落とした。これで分岐宇宙から真宇宙に戻り、ドニーは死亡してグレッチェンや家族が生き残る。

レッチェンがドニーと短時間で恋仲になったのも、フランクが唐突に表れてグレッチェンを轢き殺すのも、すべて操作されていたからである。というか、上に箇条書きした謎のうち、不可解な登場人物の行動は、彼らが操作されていたからである。登場人物の行動はほとんど操作されている。すべてはドニーにアーティファクトを真宇宙に戻すためだ。『タイムトラベルの哲学』によると、このようなことは歴史で何度か発生しているらしい。分岐宇宙が発生するたびに、選ばれた受信者は操作された者たちかに導かれて、アーティファクトを真宇宙に戻してきたわけだ。

ドニーがブロンズ像に斧を突き立てられたのも、ジムの家を児童ポルノの部屋が残るように燃やせたのも、四次元の力である。よじげんの ちからって すげー

胸から出る水はよくわからなかったが、水ならば四次元の力に関するものだろう。フランクがドニーを導くために操っていたか。

終盤の曲が流れて、主要な人々の顔が映ったとき、ジムが泣いていたのは彼が分岐宇宙でたどった運命を覚えていたから。フランクも覚えていたのか、自身の右目を触っている。ドニーの狂気的な笑いは、自分が死ぬことに対する恐怖と、大切な人を救えた喜びが混じったものだろうか。

解説すべきことはまだあるかもしれないが、長くなりすぎるのでこれくらいにしておこう。しかし、謎はまだ残るわけだ。そもそもなぜ分岐宇宙が発生したのか? これについてはなんらかの事故で飛行機から外れたエンジンがたまたまタイムポータルを生み出して時間を超えてしまった、という筋書きだろうか。そうなると、エンジンを落としたのはドニーなのだから、ここで円環的な状況になってしまう。また、スパロウ老人が分岐宇宙のことなどについて知ることができたのはなぜか? これは完全に想像で補うしかない。彼女が『タイムトラベルの哲学』を書いたこと自体、操られていたのかもしれない。そしてなによりも重要な「彼ら」とは誰か。これについてはディレクターズカット版で「未来人」という言葉が出てくるらしいが、確認できていないのでこれ以上は触れないでおく。

他にも解説や考察をしているサイトはたくさんあるので、よくわからなかった、納得できない人はそれらをあたってほしい。やっと感想だ。

 

マヨネーズと七味

前書きでスルメ映画という単語を出したが、本作を味わうにはマヨネーズと七味、つまり公式サイトで読める『タイムトラベルの哲学』が必要だと感じた。作品の考察をするのは楽しいし、裏設定も大好物なのだが、『ドニー・ダーコ』に関しては本編での説明があまりにも少なすぎて、まともな考察もできずに置いてけぼりにされる。裏設定も、本編が百パーセントの面白さがあって初めて輝くものだと思っている。本作は裏設定がないと百パーセントの面白さを味わうことができない。本作は興行収入がふるわなかったということだが、それも当然だろう。『タイムトラベルの哲学』を読んでから見直すと、いろいろな発見があるのだろうが、個人的にはリピートするほどの映画ではないかな、と感じた。なるほど興味深いラストなのだが、半分くらいの人はただ単にわけがわからずに見たことを後悔する映画だろう。

『タイムトラベルの哲学』自体は面白い。とくに操作された生者が一見不可解な行動をとるというのは、ご都合主義を見事に設定として取り込んでいる。むしろそれこそが伏線なのだ。だからこそ、なんらかの手段を用いて作品中に設定を説明しなかったことが惜しい。

 

FEAR AND LOVE

『タイムトラベルの哲学』を読まずとも、本作には楽しめる要素はある。まず、この映画は青春映画だということ。

英語の授業でテーマとなっているグレアム・グリーンの作品Destructors。二次大戦後のロンドン、悪ガキたちが爆撃による崩壊を免れた老人の家を壊すという作品。作中で悪ガキたちがする破壊行為が、ドニーの行いと結び付けられるが、まさしく破壊行為というのは青春の側面のひとつだろう。夜の校舎窓ガラス壊してまわった、だ。また、この本がPTA集会で取り上げられたとき、家にいるドニーはフランクに「学校の危機だ」と言われる。集会では教師のキティ・ファーマ―が、Destoructorsを悪書だと言って学校から追放しようと呼びかけている。キティは常に自身の道徳規範を生徒に押し付けるキャラクターで、フランクはまさに、彼女のような人間によって学校から青春のいち側面が奪われることを「学校の危機」と表現している。青春映画によくある、少年少女対大人の規範の構図である。ドニーの行動をただ不可解なものとして描くのではなく、映画の別の側面と繋げているのは見事だ。

ジム・カニングハムものキャラクターも良い。白人で金髪のマッチョという容姿は、観客に一目で彼が偽善者であることを理解させる。彼のビデオもカルト宗教然としていて、こういった自己啓発ビジネスの胡散臭さを皮肉っている。これもまた、青春と大人の規範の対立だ。ドニーはキティの授業で、人間の感情は複雑だから、恐怖と愛だけで分けることはできないと答える。ごもっともなドニーの答えに対して、キティは零点をつけるとしか返せない。この大人の欺瞞を暴くところもいい。もちろん、そのあとにドニーが彼女に暴言を吐くのもだ。ジムの講演で彼をこき下ろしたドニーは、放課後にグレッチェンを相手にジムを罵倒する。彼のジムへの怒りは、のちのちジムの家を燃やすことに繋がるが、それ以上に青春期に感じる世の中の大人の欺瞞への怒りだ。講演でドニーが追い出されたとき、彼の意見に賛同するように拍手喝采が生徒たちから起きる。ドニーはまさしく『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンだ。

ジムは真宇宙に戻ったあと涙を流していたが、これはどうしてだろう。自身の児童性愛を後悔していたのか、それが発覚して自分がすべてを失った経験を思い出して泣いているのか。もしくは両者が入り混じっていたのかもしれない。

ところで、ジムのビデオの内容が間違っているかというと、必ずしもそうではない。ジムはビデオで彼のエクササイズを受ける人々の言葉を紹介している。「人の命は、尊いのだ。恐怖に負けるほどもろくない」。これを聞いたドニーはわずかに表情を動かす。この表情はジムの言葉をあざ笑う一方で、どこか納得している感もある。ドニーは講演で怖くてたまらないと言う。彼の恐怖は操作された死者であるフランクや「操作」によって引き起こされるものだが、結局のところ、彼は恐怖に突き動かされながらもけっして屈することはなく、グレッチェンや家族への愛をもって力を使い世界を救う決断をする。たとえ自分が死ぬことになっても。

ほかにも感想はあるが、長くなって疲れてきたのでここまでにする。

 

 

まとめ

あまりにも多すぎる謎と、それが解決されないせいで好みがわかれる映画だろう。裏設定を知れば非常に面白いのだが、製作がそれを明かさないことに美学を感じたのか、さまざまな都合の問題なのか、本編だけで作品が完成していなかったのが残念。