自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 トライアングル

『トライアングル』 
(原題:TRIANGLE)

2009年 イギリス/オーストラリア 99分

評価8点/10点中

バタフライ・エフェクト(2004)』以来ずっと人気のループもの。日本ではアニメ『STEINS;GATE』が自分の高校時代に流行った。自分はPSP版を予約購入したのだが、ADVがどうも苦手で途中でリタイアしてしまった。
本作『トライアングル』もループものだ。ビデオリリース時にはタイトルが『トライアングル 殺人ループ地獄』になったらしい。火曜サスペンス劇場みたいだ。
本作を見ていないかたは感想を見る前に、ぜひ見てほしい。

簡単なあらすじ(ネタバレなし)

自閉症の息子をもつシングルマザーの主人公は、友人の男性に誘われクルーズに出かける。友人は主人公の様子がおかしいことに気づくが、主人公は船に乗ると言い張り、クルーズはスタート。
当然のように嵐に遭い船は転覆。六人のメンバーから行方不明者がさっそく一人でる。
裏返ったクルーザーに乗って助けを待つ五人だったが、そこに巨体な客船が現れる。客船に人影を認めた五人は救助を要請するために乗り込むが、一向に人の気配がない。おまけに主人公は船内の光景にデジャヴを覚える。
船内を散策するうちに、麻袋で顔を隠した謎の人物に襲われる一行。一人、また一人と殺され、ついには主人公一人になってしまう。
決死の反撃で襲撃者を舷側まで追い詰めた主人公だったが、襲撃者は意外な言葉を発する。
「彼らが戻ったら全員殺して。それが戻る方法よ」
そうして海へと落ちる襲撃者。そして主人公が見たのは、転覆したクルーザーから手を振る自分たちだった。





以下感想(ネタバレ含む)

個人的には「ループもの」の難点として、同じシーンを何回も見せられるというのがある。
多くの作品は主人公が死ぬor失敗する→リスポーン地点へと戻るがパターンと化しているからだ。自分はそれに飽きてしまうことがある。ループごとに生じる些細な違いとそれが生み出す結果の違いを見つけるのが、この系統の楽しみかたなのだろうが、何度も聞いたことあるセリフ(とくに長台詞)を繰り返されるとうんざりしてしまう。
しかし、この映画のいいところは同じシーンを繰り返さないこと! というのもループにはまる主人公なのだが、ループのリセット条件が、主人公以外全員が死ぬこと(時間経過?)なのだ。
主人公(A)以外が死ぬと、主人公(A’)一行がやってくる。視点は常にAからなため、視聴者は同じシーン新しい視点から見ることができる。この視点があるため、ループ回数自体は少ないのだが、作中の謎や登場人物の死の真相が加速的に明らかになる。
主人公(A’’)がやってきても視点はA。本作は結果がゼロになるループではなくて、結果が積み重なっていくループ。落としたものは次のループになっても同じ場所に落ちている。物が残るということは、人(人だったもの)も残るということで、それが主人公と視聴者をハッとさせる。この仕掛けは物語終盤で主人公と視聴者を絶望に突き落とし、物語前半の不穏な空気を説明してくれる見事な仕掛けになっている。
テーマとしてはギリシア神話の「シーシュポスの岩」が近いだろうか。「シーシュポスの岩」とはシーシュポスが神に与えられた罰のことで、彼は巨大な岩を険しい山の頂上まで持ち上げるのだが、岩は頂上につく転がり落ちてしまう。そしてシーシュポスはまた岩を永遠に運び続ける。つまりは「徒労」というわけである。
主人公たちが乗る客船の名前も「アイオロス号」で、ギリシア神話関係だ。アイオロスはギリシア神話の登場人物で風の神。漂着したオデュッセウスを援助した人物である。ややこしいことにギリシア神話にはアイオロスが三人いる。ギリシア神話の名前のややこしさはどうにかしてほしい。

本作にはあまり有名な俳優がでていないが、一人だけ有名どころがいる。マイティ・ソーの弟である。ロキではない。マイティ・ソー役であるクリス・ヘムズワースの弟リアム・ヘムズワースだ。なんかクリス・ヘムズワースに似ているなと思っていたら、弟だった。まだ『ハンガー・ゲーム』で売れるまえだからね。

まとめ

よくできた「ループもの」である。全体の雰囲気も不気味で、客船内部もなんだか『シャイニング』のホテルみたいだ。
「ループもの」はだいたいミステリとかサスペンスになるのだが、本作はホラー要素が強いと思う。それも襲撃者が突然出てきて怖いとかではなく、真実に近づくにつれてゾッとするような感覚だ。
主人公はどうしてループに陥ったのだろうか? 「シーシュポスの岩」がモチーフと考えるなら、手を挙げてしまった息子に対する行いにたいする罰だろうか? まあ、たぶんそうかな。結局、主人公の贖罪も無に帰すわけだし。

気になったのはクルーザーが転覆したときに行方不明になった女性だ。彼女もループの内部にいるのだろうが、すぐに溺れて死ねるなら、彼女が一番救われてるのかもしれない。いっぱいある自分の死体を見るのは嫌だなあ。