自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 サードアイ2

『サードアイ2』

  (原題:Mata Batin 2)

2019年 116分 インドネシア

評価 5点/10点満点中

 

 

去年Netflixで公開された『サードアイ』の続編。前作の最後で、開眼したサードアイを使って迷える霊たちを救うことを決めたアリアとアベルの姉妹。本作は時系列も登場人物も正統派な続編だ。

前作からほとんどまもなく作られた続編。よっぽど本国インドネシアでは人気がでたのだろうか。個人的な評価としては笑えるホラー映画だった前作と比べると、本作は「軽微なバグを修正したマイナーアップデート」だ。見ている限りでは前作のヘッドフォンのような初歩的なミスはなかったものの、脚本や演出ともに前作からレベルは変わらない。むしろ本作のほうが笑える場面が多かったかもしれない。

ホラー映画として見たときには赤点だが、笑える映画としてならそこそこ。とくに後半はすごい。なんかもう、すごい。

妹のアベルを救うために、霊的な能力である「サードアイ」開いたアリア。彼女たちを苛んでいた霊を鎮め、「サードアイ」を使いこの世にとどまる霊を救うために活動を始めた二人。その二人の前に、ミラという女の霊が現れ、、、。というのが本作の簡単なあらすじ。最初から衝撃の展開が待っているが、後半はもっと衝撃を受けるだろう。違う意味で。前作を見てからこの『サードアイ2』に手を出した人は、笑えるのを期待したか主人公の姉妹目当てだと思う。

 

 

 

あらすじ(序盤のネタバレあり)

前作での出来事以来、アリアとアベルの姉妹は、霊能力者ウィンドゥの教えを受けて自らの「サードアイ」の力を磨いている。二人は高めた力を使い、この世に彷徨える霊たちを苦しみから解放し続けている。

あるときから、ミラという女の霊がアベルを悩ましている。姉のアリアも協力してミラとの交信を試みるが、二人はことごとく失敗する。ウィンドゥから、サードアイの集中には水中が効果的だと学んでいたアリアは、水を張った浴槽に全身を浸け、霊視を始める。アリアが見たのは自室で寝ているアベル。するとアベルは目を覚まし、クローゼットを開ける。中にはなにもなく、後ずさりするアベルに女の霊が天井から飛びかかる。悲鳴を聞いたアリアは霊視から覚醒し、急いでアベルの部屋へ向かう。血を流して倒れているアベルを見つけたアリアは、彼女のもとに駆け寄り声をかけるが、アベルからの返事はない。アリアは近くに立っていた女の霊、ミラになにをしたのかを問う。ミラは絶叫を上げると消えてしまう。アベルの手に握られているロケットに気づき、それを手にしたアリアの頭に、大きな邸宅のビジョンが飛び込んでくる。アリアは何度もアベルに呼び掛けるが、妹からの返事はない。

アリアが見た邸宅のヴィジョンは、物に宿った思念を読み取る力の「サイコメトリー」によるものだとウィンドゥは語る。家を売り払い、妹の死に関わったミラを探すことを考えるアリアに、復讐はなにも生まないとウィンドウは諭す。孤児院で働くことに決めたアリアは、ウィンドウの言葉に納得しながらも、妹の死についての捜索は続けると言う。

孤児院についたアリアは、経営者であるラクシュミとその夫のファドリと会う。アリアは、孤児院がサイコメトリーで見た邸宅であることに驚く。この邸宅は、ラクシュミの両親が残したもので、いまは十六人の少女が住んでいるという。アリアを案内するラクシュミに、ラヤという少女が寒いという。アリアが温度計を見ると、メーターはどんどん下がっていき、彼女の息は白くなる。

案内の途中、アリアは部屋の隅で壁に耳を寄せている少女を見つける。彼女はナディアといい、二週間前に土砂災害で家族を亡くしてここに来たのだと、ラクシュミが教えてくれる。ラクシュミが声をかけると、ナディアは急いで去ってしまう。彼女が忘れていったスケッチブックを見たアリアは、そこにたくさんの霊が描かれているのを見て、ナディアもサードアイの持ち主だと知る。

用意された自室で荷解きをするアリア。彼女の背後で絵が傾く。アリアはボイスレコーダーを部屋に置くと、今日から一人部屋になるナディアのために彼女の部屋を整えに行く。部屋に来たナディアに挨拶すると、アリアは自分も霊が見えることを語り、スケッチブックを返す。ナディアも自分は幼いときから見えていた話す。また絵を描くことで頭に残ったイメージが消えるのだという。この家で霊を見たのかとアリアが尋ねると、見たことはないが声が聞こえるとナディアは答える。「私を解放して」。スケッチブックにはナディアが聞いた霊の声が書かれている。

部屋に戻ったアリアは、ボイスレコーダーを再生して、「来て」という声が入っていることを確認する。何度も繰り返して聞いていると、廊下から物音がしたので、アリアは部屋を飛び出す。廊下にはナディアがうずくまっており、アリアは彼女を助け起こす。壁の中から声が聞こえるというナディアの言葉を受けて、アリアはコップ使い壁からの声を聞く。壁の中からは救いを求める声がする。声に従いバルコニーのほうを見ると、敷地内の別の建物の扉が開く。

二人はその建物にはいる。中は本が詰まった本棚がいくつもある大きな空間で、壁からの声に導かれるように二人は中を散策していると、一冊の本が本棚から落ちる。本があった場所にスイッチがつけられていることに気が付いたアリアはそれを押す。すると本棚が動き、隠し扉が出現する。扉を開けようとするが鍵がかかっており、アリアは霊に鍵の場所を訪ねる。すると上にあった換気扇が動き出し、アリアが換気口に隠された鍵を見つける。扉を開けると、書斎のような空間が広がっている。しばらく散策した二人だが、変わった様子は見られる部屋を出る。そのまま建物を出ようとしたとき、また本が一冊落ちる。アリアは落ちた『ダルマ』という古い本を拾い上げて本棚に戻し、二人は建物をあとにする。建物の扉が閉まるとき、本棚に乗った恐ろしい霊が垣間見える。二人は気づいていなかった。それがこれから始める恐怖の始まりだったことに。

ミラという霊の正体。アベルの死の真相。施設に隠された陰惨な秘密。再び、アリアは霊との戦いに挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

アベルエクス・マキナ

前作の最後で、アリアはあの世とこの世の狭間に突入し、恋人との別れまでを経験してアベルの魂を取り戻した。それほど苦労して取り戻したアベルが、開始五分ほどで死んでしまう。

前作の苦労はいったいなんだったのか。

そして新たなサードアイの持ち主であるナディアの登場。あまりにも露骨なヒロインの交代である。おまけにたまたま働きに出た孤児院が、サイコメトリーで見た邸宅だったという凄まじい展開。ご都合主義万歳である。

展開が適当なのもそうなのだが、ともかく前半から恐怖演出の数がすごい。とりあえずビビらせとけばいいだろ、という制作者の思惑が透けて見えるのだが、演出は全部どこかで見たことがあるようなもので目新しさがなくまったく怖くない。映像表現よりも突然鳴る大きな音という音響効果のほうがびっくりするし、それもあまりに頻繁なので怖いと言うか疲れるだけだ。おまけに本作の悪霊であるダルマはなかなか人を襲わない。ちょっとしたポルターガイストだったり、スリッパをベッドの下に引きずり込んだり、ジャパニーズホラーの幽霊たちもしないような地味なビビらせ方である。

そうした展開がずっと続き、ようやく孤児院に隠された真実が明らかになる。ダルマはラクシュミの妹の子ども、つまり彼女の姪であり、ファドリと妹の不義によって生まれた子どもだった。これ以上秘密を隠せないと思った妹はラクシュミに話すことを決意。しかし、不倫がバレることを恐れたファドリは妹を殺害。現場を見ていたダルマも殺してしまう。そして彼は二人の死を強盗に見せかけるのだが、二人の霊がファドリを苛むことになる。しかしサードアイを開いていたファドリは二人を封印。しかし妹の霊だけが逃げてしまい、ファドリは二度と彼女が戻ってこないように家の周りに結界を張る。ダルマの霊は封印されたままだったが、彼女の声に導かれたアリアたちが、その封印を解いてしまい、ダルマはファドリに復讐すべく行動を開始した。

ここまでは理解できる展開だ。ファドリまでサードアイを持っていることに、サードアイのバーゲンセールかよとか思ったが、まあいいだろう。展開のおかしさが増すのは次からだ。

実は消えたラクシュミの妹の霊こそが、序盤に登場したミラであり、アベルは彼女との交信によりファドリこそがミラとダルマを殺したことを突き止めた。そしてファドリに証拠を突き付けて自首をするように促した。しかし、ファドリはそれを拒否し、あろうことかアベルを殺害した。アベルの死はミラの仕業でなく、むしろ彼女はアベルを助けようとすらした。

ファドリがとんでもないクソ野郎ということは置いといて、アベルの死は霊的なものでもないただのナイフによる刺殺だった。

インドネシアには警察がいないのだろうか? ただの殺人事件なうえにアベルは抵抗して争った形跡もある。アベルの死について捜査が行われているなんてこともなく、まるでミラによって殺されたかのような描かれ方だ。ミラとダルマ母娘の殺害や、よくよく考えれば前作の一家殺人についてもそうだったが、この映画の世界にはまともな捜査をする警察が存在しないのだろうか? 

あとアベルはどうしてアリアに相談しなかったんだろうね。謎だね。

なんやかんやあってファドリがダルマに乗っ取られたり、ウィンドゥ先生がすごくいいタイミングで現れたり、ナディアが死んだり、アリアの魂がダルマに連れていかれたりして、アリアとファドリの魂を取り戻すためにラクシュミがサードアイを開いて、幽霊となったナディアとともにあの世とこの世の狭間へと行く。協力してくれる幽霊がいないと生者は狭間で悪霊に取り込まれるという設定を忘れていなかったのは好感触。いっぽうで、そのために新ヒロインがさっそく死ぬという展開。そして例のごとく狭間という名のお化け屋敷に突入である。

本作の狭間は、まるで刑務所のようなつくりであり、前作のよりもお化け屋敷感が増している。

f:id:KeiMiharA:20190625163157p:plain

(c)2019,Hitmaker Studios,Netflix

ちなみにそのころファドリさんは実の娘とSMプレイを楽しんでいる。

f:id:KeiMiharA:20190625163201p:plain

(c)2019,Hitmaker Studios,Netflix


ここから脚本がキマリ始める。

それほど障害もなくアリアのもとにたどり着いたラクシュミとナディア。ダルマがいない間に彼女とファドリを助けようとするが、怒りに囚われたアリアは二人の声が耳にはいらない。このままではアリアを連れ戻せない、二人が絶望したそのとき、

f:id:KeiMiharA:20190625164302p:plain

(c)2019,Hitmaker Studios,Netflix

アベルエクス・マキナ(機械仕掛けのアベル)
まさかのアベルが天国から降りてきてアリアにファドリを許すように説得。さらにはアベルはファドリを許すと言う。お礼を言うファドリに気をとられたラクシュミはナディアと手を放し、ダルマに見つかってしまうが、さらにミラが現れてダルマを説得。ファドリを解放して四人は脱出する。あとアベルの力でナディアは生き返りました。

アベルはアリアを説得するために天国から降りて来たと言うが、天国ってそんなに簡単に降りられるものなんですね、知りませんでした。しかも人の生き死にを左右できる力を持っていたアベル。恐ろしい。

現世に戻ってきた四人だが、ダルマがアリアの乗っ取りファドリを殺すことに成功。やったぜ。ダルマが怒れる悪霊になってしまったことに、ついに堪忍袋の緒が切れたウィンドゥがとった行動は、

f:id:KeiMiharA:20190625165408p:plain

(c)2019,Hitmaker Studios,Netflix

まさかの魔法律

ウィンドゥは地獄の門を開き、地獄の死者たちがダルマを地獄へと連れていく。まるで某漫画の魔法律だ。ダルマが連行されるシーンは幼児誘拐にしかみえない。

そんなこんなでダルマは地獄行き、ナディアはラクシュミの養子となって一件落着。孤児院には平穏が訪れましたとさ。

 

「復讐、ダメ絶対」

というわけには行かず、アリアたちを連れ戻す際、ウィンドゥ先生は狭間への門を閉じるタイミングを少し遅らせてしまったらしい。門は孤児院に残留し、これを嗅ぎつけた悪霊たちがやってくるという。事故物件とかいうレベルじゃねーぞ。悪霊たちがやってくる孤児院ってなんだよ。最後にはしっかり続編フラグも立てて終わり。

もう三作目がでたらすぐ見ます。

終盤はほんとうに脚本がラリっているいるのかと思うくらいメチャクチャで、アベルエクス・マキナは出てくるわ、魔法律は出てくるわと矛盾とか齟齬とか整合性とかを視聴者に考えさせないほどにぶっ飛んだ展開が続いた。前書きで本作は前作のマイナーアップデートだと書いたが、脚本のぶっ飛び具合に関しては大規模アップデートだ。

今回のテーマは「復讐、ダメ絶対」なのだろう。ウィンドゥ先生は何度もアリアに復讐の虚しさを語っているし、怒りに囚われたアリアに対して、アベルが道徳の教科書でももうちょっと婉曲な伝え方するぞ、と思うほどストレートに復讐はだめだと語る。復讐の怒りに飲まれたダルマはとうとう地獄行きである。ウィンドゥ先生は、霊はなるべく天国へ導くという方針をとっているのだが、それでもダルマはダメだったようだ。

復讐に囚われた少女の霊。それだけ見るととても面白そうなのだが、結果としては別の方面に面白くなってしまった。

 

 

まとめ

前作から笑いの方向への進化を遂げた本作。まさかの魔法律登場に、次回作からはバンバン魔法律が飛び交うものになるのではと期待を抱かずにいられない。真面目な評価をすると、ホラー映画としてはギリギリB級と評せるレベルで、その方面のレベルは前作からなにも変わらない。ただ、もう『サードアイ』シリーズに求めるのは、そこではないかもしれない。