自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 シー・ユー・イエスタデイ

『シー・ユー・イエスタデイ』

  (原題:See You Yesterday)

2019年 87分 アメリ

評価3点/10点満点中

 

 

アメリカに奴隷として連れてこられた黒人たち。公民権運動により公民権法が制定されて半世紀以上が経ったいまなお、アメリカでは黒人差別は強く根付いている。それを示すように、白人警官による黒人射殺事件が相次いでいる。もちろん、アメリカは銃社会であり、警官が発砲することは珍しくない。なぜこれらが注目されるかというと、多くの場合殺された黒人はなんの罪も犯しておらず、警察の誤認や過剰な防衛によって発砲しているからだ。射殺事件において白人警官は多くの場合、無抵抗で武器も携帯していない黒人男性を撃っている。ひどい場合は自宅のガレージで音楽を聴いていただけで射殺されたケースもある。

たしかに黒人による犯罪率は他の人種と比べても高い。しかし、それは彼らが社会構造のせいで貧困層に囚われていること、それにより学習、進学の機会が得られないこともある。

本作『シー・ユー・イエスタデイ』も、アメリカにおける黒人が置かれた状況を反映した作品だ。制作は黒人の社会問題を数多く映画にしてきたスパイク・リー。監督は彼の愛弟子で、同名の短編が話題になったステフォン・ブリストル

理系の黒人少女が、警察官により不当に射殺された兄を救うために、自らが開発したタイムマシンで過去に戻る。だが、過去を修正しようとするたびに悲劇が起こる。

正直、映画としては面白くない。短編だったものを無理やり伸ばした感があり、間延びした演出が目立つ。ストーリーもよくあるタイムトラベルものに、黒人差別問題を絡めただけであり、なによりラストが残念だ。よっぽど暇な人は見てもいいんじゃないだろうか。

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

女子高生のC.J.は、親友のセバスチャンと共に、年度末のプレゼンに向けてバックパック型のタイムマシンの開発をしていた。その成果によって、二人は大学の奨学金を勝ち取り、ブルックリンから抜け出すことを夢見ている。だが、タイムマシンの実験は失敗が続いている。

終業式が終わり夏季休暇が始まった日、二人は学校のラボから機材を借り、いよいよタイムマシンの完成を間近に控える。学校からの帰り道、いきつけの店でジュースを買ったC.J.は、たまたま居合わせた元カレのジャレドに煽られて怒り彼を店から叩きだす。ジャレドが彼女に反撃しようとしたとき、C.J.の兄のカルヴィンが間に割ってはいり、ジャレドを威圧する。カルヴィンに気圧されたジャレドはその場を去る。

カルヴィンはC.J.に、短気を直すように言う。カルヴィンが兄ぶることを鬱陶しがっているC.J.は兄に反論し、二人は口論になる。すると、警察官が近づいてきて、カルヴィンにIDを出すようにと威圧的に求める。不当な要求にIDを出し渋るカルヴィンに食いかかる警察官だが、C.J.が「ピエールを撃つ前にIDを確認した?」と聞く。ピエールは数日前に警官に射殺された黒人青年で、彼の死に怒りを感じた人々がデモを行っている。ピエールの名前にひるんだ警察官は、しぶしぶその場を去る。

セバスチャンの家のガレージに作られたラボに到着したC.J.とセバスチャンは、さっそくタイムマシンの調整にはいる。途中、祖父に芝刈りを手伝えと言われたセバスチャンは、現状から抜け出したいとこぼす。家に帰ったC.J.は、再び兄と口論になるが、カルヴィンが頭の良いC.J.を誇りに思っていると聞くと、態度を軟化させる。亡き父のドッグタグをくれと言うC.J.に対して、カルヴィンは俺が死んだらな、と返す。

翌日、C.J.とセバスチャンはタイムマシンの実験に成功し、一日前の六月二十八日に戻る。浮かれていた二人は、そのまま街を散策。道行く人に日にちを尋ねては喜ぶ。ジャレドと出くわした店に入った二人。セバスチャンはタイムパラドックスのことを心配するが、C.J.は気に留めることなくジュースを買い、ジャレドにかける。ジャレドが怒っているとき、昨日の二人が店に入ってくる。昨日とどうように兄が助けに入り昨日の二人は事なきを得たが、去ったジャレドにC.J.がまたジュースをかける。憤怒したジャレドは二人を追いかけるが、C.J.を捕まえたとき車に轢かれる。思わぬことに動揺するC.J.だが、セバスチャンにタイムリミットが迫っていることを告げられ、その場をあとにする。現在に戻ったC.J.はジャレドが骨折で済んだことを確認するが、セバスチャンは彼女に対して怒る。

七月四日、カルヴィンが近所の住人たちとのパーティーに参加していると、骨折したジャレドがC.J.を探しにやってくる。一触即発の二人を周囲の人々が止めるが、カルヴィンはそのままパーティーを抜け出し、友人とともにマルコムX通りを歩く。他愛のない話をしていると、彼らの横を黒人青年ふたりが駆け抜ける。そしてその直後、パトカーが二人の後ろに止まり、中から出てきた警官が二人に銃を突きつける。

カルヴィンは警官に強盗犯と間違われ射殺される。葬儀が開かれ、ピエールの事件と重なって、抗議デモは暴動に変わる。最愛の兄を失ったC.J.は悲しみに暮れるが、母の言葉でタイムマシンのことを思い出し、過去に戻って兄の死を回避することを決意する。はじめセバスチャンは過去を変えることに反対するが、カルヴィンが自分にとっても兄同然だったことを思い、C.J.に協力する。

かくして二人は過去に戻り、カルヴィンを救うために行動する。しかし、兄を救おうとするたびに、C.J.の前には新たな悲劇が立ち上がる。果たしてC.J.は兄を救えるのか?

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

尻切れトンボのトンボは草履のことって知ってた?

タイムトラベルをして大切な人の命を救う。だが、時を遡るごとに物事は悪いほうへと進んでいく。もはや手垢まみれの展開だ。そのまま踏襲するだけでは見飽きた退屈な展開にしかならない。だからタイムトラベルものは、布石や伏線を巧みに使ったり、個性的なキャラクターを出したり、思わぬ解決方法を持ち出したりして、観客に面白さを提供しなければならない。タイムトラベルもので面白いと思わせるには、作り手側の並々ならない工夫と努力が必要なのだ。

しかし本作は、それらの工夫を放棄してしまっている。その最たる箇所が、ラストだろう。本作は、タイムトラベルの過去改変によって死んでしまったセバスチャンを救ったあと、C.J.がひとりで兄を救うため過去に飛ぶところで終わる。結局、彼女が兄を救えたのか、それとも兄を救えぬ泥沼にはまるのかがわからない。要するに、話が解決しないのだ。このせいで、せっかくのドッグタグの布石はまったく無意味なものになってしまっている。

気になるのが、作り手側がこの映画のウェイトをどこに置いているかだ。タイムトラベルものに置いてあるなら失敗だろう。現代アメリカにおける黒人の状況を描くことに置いてあるなら、まずまずといったところ。少なくとも、タイムトラベルものとしては駄作に片足突っ込んでいるレベルだ。

それに対して、現代アメリカ社会を描いている点に関してはそれなりに細かくできている。警察官にからまれるシーンで、カルヴィンの友人が警察官に向けてカメラを構えているシーン。黒人であるから奨学金を得ないと大学に行けず、貧困層が多いブルックリンから抜け出したいと望むC.J.とセバスチャン。セバスチャンを救うために、わざと警察官の前でポケットからスマホを取り出して撃たれるカルヴィン。どれもアメリカでは実際にある光景だ。しかし、これらの描写ももっと優れた映画があるだろう。警察官による黒人射殺事件などは、実際の事件について調べたほうが悲惨さが伝わってくる。

本作の結末は、苦難の泥沼に囚われたアメリカ社会の黒人たちの現状を表している、ととれるかもしれない。が、それはあまりにも好意的な解釈だろう。単純に、オチが思いつかなかったという印象しかない。

 

短気は損気

本作で一番気になる点、それは主人公のC.J.のキャラクターだろう。作中でも様々な人物から短気だと指摘されている彼女だが、実際、彼女はあまりに短気で直情的すぎる。タイムトラベルによるパラドックスを発生させないようにセバスチャンから警告され、学校の先生(マイケル・J・フォックス)にもタイムトラベルには倫理的な問題が伴うと言われていたのに、彼女は最初のタイムとレベルでジャレドにジュースをかけて、あげく彼が骨折を負う原因となる。しかも、これは兄の死の遠因となる。帰還後にセバスチャンから注意を受けたときは、謝りながらも半ば逆ギレで反省の色が見えない。セバスチャンが死ぬことになったのも、短気な彼女の行動によるものである。ここまでくると、短気なキャラクターではなく、脚本のための操り人形にしか見えない。彼女にはまったく感情移入ができないのだ。だか最後、セバスチャンを危険な目に合わせないようにひとりで過去へと戻る彼女の意を決した様子も、まったく心に響かない。むしろ、さらに状況をこじらせるのだろうなとさえ思える。

おまけに、彼女に好意を寄せてそのために自分の発明を貸してくれるエドアルドに対する態度が最悪だ。エドアルドがしつこくデートに誘うだけのキャラならば、彼女の態度も納得いくが、彼は彼女に自分が心血注いだ発明品を提供するのである。にもかかわらず、彼女はセバスチャンを救うためのタイムトラベルのときに、彼に少し詫びるだけ。エドアルドはC.J.のどこに惚れたのだろうか。

全体を通して、C.J.は短気でわがままなキャラクター以上の印象を受けなかった。

 

 

まとめ

現代アメリカにおける黒人が曝されている問題と、タイムトラベルを絡めた本作。しかし二つのテーマの絡み合いに必然性も感じられず、タイムトラベルものとしては出来が悪い。それに合わせて主人公のキャラも悪い。短編を無理やり希釈して薄く伸ばした結果、なんの形にもなることができなかった作品。おススメできるレベルではない。