自分という病

主に映画の感想 たまに変なことも書きます。あらすじは長いです。

映画感想 ディヴァイド

ディヴァイド』(原題:The Divide)

2011年 112分 アメリカ/カナダ/ドイツ

評価 6.5点/10点満点中

 

 

最近はめっきり大人しくなったが、数年前は日常茶飯事のように北の将軍様がミサイルを飛ばしていた。その時分には日本には避難用のシェルターが少ないことも問題になった。本作は舞台もシェルター。突如壊滅したニューヨーク。アパートのシェルターに避難した人々が追いつめられていく。

シェルターというのは秘密基地みたいで子ども心をくすぐるものがあるが、実際にそこに入るとなると恐ろしい。食料も水も限られている。娯楽はなく、狭小な空間で単調な生活を強いられる。他に人がいなければ孤独にさいなまれるし、他人がいればいさかいが生まれる。そして、いつ出られるかもわからない。異常な状況に長く曝されれば精神は追いつめられていき、シェルターで生き永らえたことを後悔を抱くかもしれない。

本作では閉鎖された空間に加えて、シェルターに防護服の一団がやってくる。それをきっかけに、避難した人々の心は蝕まれていく。闖入者たちは何者なのか? なぜニューヨークにミサイルが落とされたのか? そしてシェルターの外はどうなっているのか?極限の状況に様々な謎が覆いかぶさる、密室スリラー映画である。

 

 

 

 

あらすじ(ネタバレなし)

エヴァが窓外に見たのは、まさしくミサイルがニューヨークに落ちる瞬間。婚約者のサムに手を引かれてアパートから避難しようとするが、玄関の外には炎が迫っており、エヴァはサムとともにアパートの地下にあるシェルターへと逃げこむ。

シェルターに避難できたのは、エヴァとサムを含めて九人。死に物狂いだった彼らが一息ついたところで、アパートが崩落し、電気が落ちる。慌てる一同のなか、葉巻を吸った男が落ち着いた様子で電気を復活させる。ミッキーというその男はイスラムのテロだと吐き捨てる。電話も通じず無線も通じない。アパート管理人でありシェルターの主であるミッキーは、シェルターの内部を案内する。自室だという部屋を覗いて。

シェルターに避難できたのは、エヴァ、サム、ミッキーに加えて、ジョシュ、ボビー、エイドリアンの三兄弟と、マリリンとウェンディの母娘、そして中年の黒人男性デルヴィン。無線で外との連絡を試みるデルヴィンに対して、ジョシュとボビーは外にでようと言い出す。ミッキーは猛反対の中、ジョシュたちは扉に近づくが、ミッキーは斧を振ってまで彼らを止める。最初の晩、眠れずにいたエヴァは、ミッキーが自室で貴重な水をつかい髭を剃っているのを目撃する。

朝になり、おのおのが気を紛らわすなか、サムは愛さえあればこの状況も乗り切れるとエヴァに語る。夜になると、備蓄の食料が豆しかないことをボビーが毒づく。ミッキーはシェルターの主は自分で、お前たちに分け与えてやっているんだと返し、二人の間で口論が始まる。口論がエスカレートすると、仲裁にはいったサムが興奮し始め、周囲に怒鳴り散らす。サムを叩いて落ち着かせたミッキーは、怯えるウェンディに簡単な手品を見せて彼女を安心させようとする。

そのとき扉の外から物音がして、救助が来たと色めき立つ。しかしミッキーとデルヴィンは警戒した様子を見せる。鍵が焼き切られ、開いた扉から現れたのは、鎧のような防護服を着て武装した集団。防護服の者たちはエヴァたちに銃を突きつけると、マリリンからウェンデイを奪い取り、彼女の首に薬を打ち込むと、そのまま彼女を袋に入れて連れ去ってしまう。エヴァたちが呆然としていると、防護服が三人残り、彼女たちをじりじりと追いつめる。一瞬の隙をついてシェルターの奥へ逃げたエヴァたち。エヴァは浴槽に隠れるが、すぐに見つかってしまう。銃口が彼女の胸元に触れようとしたとき、デルヴィンが防護服の男に後ろから一撃を食らわせ、そのまま殴り殺す。またミッキーも取っ組み合いのすえ銃を奪い一人殺すと、ボビーたちを追いつめていた最後の一人も撃ち殺す。エイドリアンが流れ弾で怪我を負うが、命に関わるようなものでなく、ジョシュたちは安堵する。サムはミッキーが撃ち殺した男の血を浴びて呆然としており、エヴァが話しかけてもどこか様子がおかしい。

死体から防護服を外すと、出てきた顔はアジア系の男。イスラム教徒のテロだと考えていたミッキーは悪態をつく。状況が分からずにいると、娘を失ったマリリンが外へ出ようとする。取り押さえられたマリリンは、鍵のある部屋に閉じ込められる。デルヴィンが無線で拾うのは、アメリカ訛りの「殲滅完了」だけ。

外にでるかで議論を交わす面々。ジョシュが志願し、防護服を着て外に出ることに決まる。防護服を着こんで銃を持ったジョシュが扉の外で見たのは、外部との隔離用に張られたビニールのトンネルだった。

徐々に心を蝕まれるシェルターの面々。ニューヨークにミサイルが落ちたのはなぜか?防護服の男たちの正体は?ウェンディはなぜ、どこへ連れ去られたのか? そして、エヴァたちは外へ出ることができるのか? やがてシェルターのなかに狂気が芽生える。

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

謎が「溶ける」

本作に対する不満の多くは、最後まで多くのことが謎のまま終わることにあるだろう。なぜニューヨークにミサイルが落とされたのか? 防護服の男たちは何者で、なぜ子どもをさらってカプセルに閉じ込めていたのか? シェルターの面々に現れた体調不良の原因は? エヴァはラストのあとどうなるのか?ほかにも細かいところで言えば、サムの精神状態が初めのほうから不安定だったこと、エヴァが自分の弁護士としての名刺を持っているのを見て喜んでいたことも謎だし、ミッキーの家族がなぜ亡くなったのかとか、あきらかに只者でない雰囲気を醸し出すデルヴィンの正体も気になる。それと、エヴァがエイドリアンのギターの音で眠れたとかいうのも。

以上のことがまったく説明されていないことは制作側の落ち度だと思う。というより、ここまでくればわざとだろ、と言いたくもなる。もちろん、謎を謎のまま残して視聴者に考察させるという物語の作り方もある。たとえば、アニメ版『エヴァンゲリオン』では多くの謎が残された(適当にばら撒かれた)。それは熱心なファンには考察する楽しみを与えたのだが、やはり謎が多すぎるので、結局いま新劇場版を作っているわけだ。庵野監督、エヴァは完結するんですかね?

しかし本作がエヴァとことなるのは、エヴァは作中にいくつものキーワードを残していて、それが正否はともかく謎を解く手がかりになったのに対して、本作にはそれらがほとんどないことだ。いうなれば、ミステリー小説を読み終わっても犯人が明かされなかった、いや、死体が出てきて終わりといった感じだ。これはもう、制作側は種明かしを放棄している。

これについて勝手な想像だが、制作側は密室スリラーを作りたかったのではないだろうか? シェルターに閉じ込められた人々が狂っていくアイデアが先行して、ストーリーが作られたパターン。例えば、

「よーし、密室スリラーを作るぞ! シェルターに閉じ込められた人々がだんだん狂っていくんだ」

「どうやってシェルターに閉じ込めようか?」

「よし、ニューヨークにミサイルを落としちゃえ。導入としてもインパクト十分だ」

「途中で謎の集団が入ってくるのも面白そうだなあ。よし、防護服の集団をだすぞ」

「登場人物が狂っていく脚本が書けたぞ! ミサイル? 防護服? なんのこと?」

制作側にとっては謎が解けたのではなく、謎が「溶け」てなくなったのだ。以上のことはあくまでも自分の勝手な推測なので、もしかすると制作側には深い意図があったのかもしれないが、あまりに深淵だったので自分にはわからなかった。

 

蠅の王

一応、密室スリラーの部分としてはそれなりによく出来上がっていたと思う。信頼できないシェルターの管理人。気が狂った人間がシェルターを支配する。退廃的な行為に耽る者たち。そうした狂気の中で生まれる新たな関係。とくにジョシュとボビーの変わりようは見ていて面白かった。ジョシュもボビーも粗暴ながらも優しさを持つキャラクターだったのが、後半はマッドマックスも真っ青なイカレっぷりだ。また、ただ狂っていったジョシュに比べて、ボビーにはどこか思うところがあった様子なのも面白い。ジョシュに髪を剃られるシーンでは泣いているようにも見えるし、マリリンが死んだあとは女装を始めた。また、ジョシュが取り押さえたサムに銃口を向ける場面では、その銃口をジョシュに向けていた。このあたりは後で考察してみようと思う。残念な点は、ジョシュとボビーの変化があまりに早く感じられたことだ。マリリンは子どもを失ったのだから精神的に堪えていたのはわかる。またジョシュとボビーはたびたびミッキーに苛立ちを見せていたので、彼が食料を隠し持っていたことに激怒するのものわかるが、そこからマッドマックスは飛びすぎじゃないだろうか。作中では途中から時間の経過が分かりにくいのもの難点。

ミッキーも、この手の映画で必ずいる信用できない管理人として良いキャラだった。陰謀論に凝り固まり、病的にシェルターを作り上げた彼。最初のシーンではシェルターに人を入らせないようにしていたが、なんやかんやで入ってきた人間には食料や水を分け与えて、ウェンディには優しさを見せている。ただ、途中までは偏屈な陰謀論者としての一面と、ぶっきらぼうだが良識を持つ二面性があるキャラで済むのだが、後半になるにつれてキャラがぶれているだけにも見えるのが残念だ。一人だけ食料を確保し、かたくなに隠し部屋の鍵の番号を教えない独善的な一面を見せたかと思えば、最後にはエヴァに銃のありかを教えてくれる。前半の二面性がここまで拡張されると、キャラとしてぼやけてしまっている。子どもにだけは優しくて、ウェンディがいなくなったから厳しくなったとか、救助が予想よりも遅くて食料に心配が出てきたとか、妻の幻覚を見て改心したといろいろ訳はつくれるのだが、それにしてもなあ、と思うところはある。

個人的にはサムが一番不気味だった。彼はただの臆病者なのか、精神的な病を抱えているのか、一番心情が読めないキャラで、いつ彼の感情が爆発するのかを期待していた。不発弾でしたが。それでもサムは謎の多いキャラだ。あとで考察。

エヴァの最後の行動には賛否があるかもしれない。婚約者のサムと一応は命の恩人であるミッキーを見捨てて自分だけが脱出している。だが、サムが序盤で言っていた愛があれば云々はこのための伏線だったのかもしれない。愛だけでは、あんな男とは生き延びることはできない。それにミッキーはやはり信用できない。それに、終盤まで一貫して良識的なキャラとして描かれていた彼女だが、彼女もまた心を蝕まれていたのだ。怪物と戦うときは、己も怪物にならぬよう気をつけなければならない。エヴァは怪物たちと戦う中で、怪物になってしまったのだろう。それに、どう見ても外の世界に救いはなさそうだし。

 

考察(適当)

本作に残った多くの謎を考察しようと思う。ぶっちゃけ制作側も深く考えてなさそうだし、考察と言うよりは妄想と言ったほうが近いだろう。

まずはミサイルが落ちた理由とウェンディが連れ去られた理由。それには落としたのは誰かを考えよう。作中の描写からするに、落としたのはイスラムのテロリストでもロシアや中国でもなく、アメリカ合衆国だろう。

ならなぜ自国の、それに大都市であるニューヨークを火の海にしたのか。考えられるのは、ラクーンシティパターンだ。T-ウイルスの拡散を防ぐために、ラクーンシティに核が落とされたように、ニューヨークではなにかしらのパンデミックが発生していて、滅菌作戦としてミサイルが落とされた。ウェンディが連れ去られたのは、子どもであれば助かる、もしくは研究対象になる病だったから。シェルター内部の人々の体調不良も説明がつく。とくに印象的な髪が抜け落ちてやつれる。ジョシュに至っては吐血している。これらはシェルター生活のストレスだけが理由ではないだろう。一方、上記の症状は急性放射線症のようにも見える。ミサイルが核爆弾だったとしたら、拡散した放射線により被ばくする。急性放射線症の症状に出血や脱毛がある。核シェルターでもない限り、放射線を完全に遮断することはできない。

ということで、ミサイルが落ちた理由は、ニューヨークでなにかしらの感染病が発生したための滅菌作戦で、ウェンディ誘拐の理由は、子どもは研究対象になるから、体調不良は放射線症で落ち着こうと思う。まあ、制作側はそれほど難しく考えてないと思う。どんな感染症かは知りません。

次にラストのあとエヴァはどうなったのか。見渡す限り崩れ落ちた街が広がっている。たぶん、バッドエンドだと思う。彼女は歩き続けるが、生きている街にはたどり着けず崩れ落ちる。やがて放射線に体が蝕まれて、、、的な。このあたりのケアがないのも、この作品の不満点だ。ここで防護服の集団が現れて、これまでのことを説明するくらいのことが欲しかった。

ミッキーの家族について。どうやら妻子ともに亡くなっているようだ。一番考えられるのは、9.11のテロ事件で亡くした線。それ以来彼はイスラムのテロを警戒するようになりシェルター作りに没頭した。これの順序が逆で、9.11が起きてシェルターづくりにのめり込み、妻子が愛想を尽かして出て行ったとも考えられる。幻覚への謝罪していたのは、シェルターにかまけて家族を顧みなかったことを後悔したから。前者のほうが高いと思う。

デルヴィンは元軍人だと思います、はい。

最後にサムについて。ずっと精神が不安定なサムは、最後までなんだかくすぶっているだけな存在だった。思うに、彼は精神的な病を抱えていたのだと思う。エヴァが彼の弁護士の名刺を持っていることに喜んだこと、弁護士らしく他の面々の仲裁をしよとしたり、弁護士だったことに固執していることから、サムは精神病で弁護士を辞めざるを得ず、それが彼のプライドを傷つけて、さらに深い病の底に落としたのだろう。生来臆病な性質だった彼は、ようやく手に入れた弁護士という鎧を失ってしまった。彼にとって最後の砦は、婚約者のエヴァだけだった。また、エヴァは元は麻薬中毒者だったらしいので、彼は弱者である彼女を救ったと思うことで自尊心を保っていたのだとも思う。総じて、あまりに弱く可哀そうなキャラクターである。

以上が適当な考察。もちろん、正否に自信はない。制作側は考えてないと何度も言っているが、もしかしたら海外のインタビューとかで種明かしがあるかもしれないが、それは映画の中でしてくれ、せめてヒントをくれ。

 

 

まとめ

惜しい映画だったと思う。多くの人はミサイルや防護服連中の真実が知りたかったのに、そこを投げ出してしまい、結果として良い面も打ち消してしまった。悪いほうに期待を裏切ってしまった作品。役者たちの演技がよかっただけに、もやもやばかりを残してしまったのは残念だ。